今月は日本民謡についてまとめてみました。
 民謡を唄う人が減っています。演歌を歌う人も減ってきています。演歌は過去のものになりつつありますが、中高年がカラオケで歌うため、今の中高年が元気なあいだは生きながらえるでしょう。
 しかし民謡がカラオケで唄われることはあまりありません。民謡はいまや民謡好きの人だけのものになったようです。
 歌の世界だけでなく、私たちの周りから日本の文化や伝統や日本人らしさがだんだん少なくなっています。
 民謡は日本の昔の生活から生まれた唄が数多くあります。先人の暮らしの中での楽しさや悲しさが凝縮されています。細々とでもこれらの遺産を守っていきたいと思っています。

民謡に親しむ

1.民謡歴25年
 民謡を唄うようになってから四半世紀が経ちました。40代後半になったころ生涯楽しめる趣味として民謡を選んだわけです。
 最初は青森県出身の先生に個人教授を受けました。かなり個性的な先生でした。民謡の先生は普通三味線か尺八で伴奏してくれるのですが、その先生はギターでした。生徒も数人しかいませんでした。その先生に教わるようになったきっかけが何だったか思い出せませんが、教わるのを止めたきっかけははっきり覚えています。先生はパチンコ狂で、稽古時間をすっぽかされたからです。
 数年のブランクの後、愛友会に入りました。愛友会は我孫子市の民謡連合会に入っている民謡のサークルで、その時は愛友会の会長が我孫子市民謡連合会会長を兼ねていました。
 途中1年ほどお休みしたことはありますが、愛友会で約23年民謡を楽しんでいます。愛友会はちょっと変わった会です。愛友会には師匠や先生はいません。自分で唄いたい民謡をラジオやテープやCDで覚え、月2回の会で勝手に唄います。愛友会には好きな曲を自由に唄えるという素晴らしい雰囲気があります。
 愛友会には名取りの唄の名手がいます。唄い方がおかしかったり、外れていたりしたときは、その人や伴奏の人たちが注意やアドバイスをしてくれます。伴奏の三味線、尺八、太鼓も名取りでどんな唄でも伴奏できます。師匠がいないため月謝もなく、会費は運営費の月1000円です。
 愛友会は2年前に創立35周年大会を開催しました。会員は私の在籍期間中は大体20〜30名の範囲で増減しています。

2.民謡の唄い方と伴奏の楽器
 民謡は自分の出せる一番高いキーで唄います。キーを下げると楽に唄えますが、その時は伴奏者や仲間から「もっと高い声が出せるはず」と言われます。
 民謡は通常三味線、尺八、太鼓の伴奏で唄います。曲によっては尺八だけの伴奏で唄います。そのような曲は竹ものと言います。「小諸馬子唄」や「津軽山唄」などが竹ものです。馬子唄などは伴奏に鈴の音を入れます。
 音の高さは唄う人が申し出ます。尺八の伴奏者が唄う人の声の高さに合った長さの尺八を選び、三味線の伴奏者は尺八の音にあわせて糸を締めます。
 尺八は1尺3寸から2尺3寸まで1寸刻みで11本の尺八があります。短いものは高い音が、長いものは低い音が出ます。
 写真は私が持っている1尺6寸から2尺2寸の尺八です。
 同じ曲でも唄う人によって高低が違います。また、同じ人でも唄う曲によって高低が違います。たとえば「ソーラン節」を1尺8寸の尺八の高さで唄う人もいれば、2尺の高さで唄う人もいます。
尺八 民謡三味線
(画像のクリックで拡大表示)
 三味線は中棹の民謡三味線と太棹の津軽三味線があります。写真は民謡三味線です。
 津軽三味線は「津軽あいや節」や「津軽おはら節」など津軽民謡の伴奏でつかわれます。また、「津軽じょんから節」曲弾などの演奏にも使用します。バチで叩くように力強く弾きます。
 太鼓は写真のように2つ使います。1人で叩きます。
太鼓 鈴
(画像のクリックで拡大表示)
 その下の写真は馬子唄などに使われる鈴です。
 民謡の特徴は「おはやし」がつくことです。なかには「おはやし」のない曲もありますが、ほとんどの唄には「おはやし」があります。
 唄のあいだに入るのが「おはやし」です。
 たとえば次は北海道の民謡「北海盆唄」ですが、( )の部分が「おはやし」です。

 ハァー北海名物
 (ハードーシタ ドシタ
 数々コリャあれどヨー
 (ハーソレカラ ドシタ
 おらがナ おらが国さのコーリャ
 アレサナー盆踊りヨー
 (ハーエンヤーコーラヤー ドッコイ ドッコイ ドッコイナット

 「おはやし」は唄う人とは別の人が入れます。

3.民謡大会と民謡ボランティア
 愛友会のけいこ日は月2回ですが、それに加えて民謡大会が年に4〜5回あります。我孫子市での大会が年2〜3回、愛友会の上部団体の大会が年1回、内輪の会が年1回です。たまには愛友会以外の会の記念大会に参加を求められることもあります。
 1つの大会に出演する人は数名なので、順番に出るようにしています。ただ、伴奏の人は全部の大会に出るので大変です。
 愛友会の上部団体は茨城県西南地区です。愛友会は千葉県我孫子市の団体ですが、上部団体はなぜか茨城県です。毎年7月の茨城県西南地区大会ではコンクールがあります。年齢別にいくつかのグループに分かれて個人が唄を競いあいます。合唱の場合は団体同士がカップを目指して唄います。優勝すると武道館の全国大会に出られるのですが、愛友会は準会員のため西南地区大会どまりです。以前は正会員だったのですが、費用がかかるため準会員に変更しました。
 民謡ボランティアでは我孫子市近辺の介護施設で民謡を披露しています。愛友会のメンバーの一部が他の民謡の会の人と一緒に10人ほどで2〜3か月に1回実施しています。

民謡への招待


 民謡は唄って楽しむものです。なかには踊って楽しむ人もいます。民謡は唄の宝庫と言ってもいいと思います。
 私はその楽しむ人で、民謡について勉強したことはありませんが、手賀沼通信に書くために、にわか勉強でまとめてみました。私の勝手な解釈や間違いがあるかもしれませんが、少しでも民謡に近づいていただければ嬉しく存じます。

1.民謡の分類
 民謡はそれぞれの起源や唄われる背景などでいくつかに分けられます。
(1)盆踊り、お祭り
 盆踊りには民謡がつきものです。日本のお祭りは民謡と直結しているものが多くあります。
 盆踊りやお祭りに深いかかわりがある民謡には次のよう唄があります。
・北海盆唄(北海道)小樽市の高島地区で、越後より集団移住してきた人々が、故郷の盆踊り唄を唄ってい
 たのが全道内に広がった
・道南盆唄(北海道)函館市郊外の亀田町を中心に唄われた盆踊り唄
・十三の砂山(青森県)十三湖地方の盆踊り唄
・花笠音頭(山形県)8月の東北4大祭りの花笠踊りで踊られる
・斎太郎節(宮城県)旧暦7月に松島の流灯会に唄うが、宮城県の海岸地区では誰でもうたっている
・宮城野盆唄(宮城県)仙台市の盆踊り唄
・会津磐梯山(福島県)会津地方の盆踊り唄
・相馬盆唄(福島県)相馬、双葉地方の盆踊り唄
・佐渡おけさ(新潟県)佐渡相川町の大山祇神社の祭りをはじめ、佐渡各地のお祭りで踊られる
・三階節(新潟県)柏崎地方の盆踊り唄
・越中おわら(富山県)9月の八尾の「風の盆」で唄い踊られる
・秩父音頭(埼玉県)秩父地方の盆踊り唄
・白浜音頭(千葉県)白浜町の盆踊り唄として作られた新民謡
・東京音頭(東京都)西条八十作詩、中山晋平作曲の新作盆踊り唄
・郡上踊り(岐阜県)7月中旬から9月初めまで約40日間、連日のように街のどこかで踊られる「郡上踊り」
 は郡上八幡の名物になっている
・河内音頭(大阪府)北河内郡を中心に唄われる盆踊り唄
・宮津節(京都府)宮津地方の盆踊りで踊られる
・安来節(島根県)9月の大山神社の祭礼に踊られる。踊りは「どじょうすくい」と言われる
・よさこい鳴子踊り(高知県)8月のよさこい祭りで踊られる。北海道の「よさこいソーラン祭り」のもうひとつの
 オリジナル
・阿波踊り(徳島県)8月の阿波踊り大会で踊られる
・炭坑節(福岡県)戦後各地の盆踊りなどで広く唄い踊られている

(2)追分、馬子、牛追い
 追分も馬子唄もルーツは峠を往来する馬子たちが唄っていたものからきています。牛追い唄は放牧地で牛を追う時やセリ市に牛をつれて行く時に唄われたものです。馬方節と牛方節は馬や牛で荷物を運搬する時に唄われました。
 ゆったりとした唄が多いためほとんど尺八の伴奏で唄われます。伴奏に鈴が入ることもあります。
・江差追分(北海道)北海道の代表的な民謡が日本を代表する民謡になっている
・南部牛追い唄(岩手県)この唄の発祥は400年以上前
・南部馬方節(岩手県)南部は昔から日本一の馬産地
・小諸馬子唄(長野県)浅間山地方に伝わる馬子唄
・箱根馬子唄(神奈川県)箱根八里を往来する旅人を運ぶ馬子が唄った
・鈴鹿馬子唄(三重県)鈴鹿峠を超える馬子たちが唄った

(3)漁、舟、川舟
 漁をする時に唄われる唄、大漁で唄われる唄、海の船頭や川の船頭の唄など、海と川にまつわる唄はバラエティに富んでいます。
 北海道に漁の唄が多いのは、勇壮な漁から生まれたのでしょう。
・ソーラン節(北海道)ニシン漁のヤン衆が沖上げ作業中唄った
・鱈釣り節(北海道)古平町の漁師が作った唄
・舟漕ぎ流し歌(北海道)ニシン舟を漕ぐときに唄った
・秋田船方節(秋田県)北前船の船頭が唄った
・最上川舟唄(山形県)最上川の物資の運搬にあたった船頭が唄った
・遠島甚句(宮城県)牡鹿半島の漁師の櫓漕ぎ唄
・帆柱起こし祝い唄(富山県)高岡市伏木港の船方衆によって伝えられた祝い唄
・磯節(茨城県)もとは江戸時代に船頭たちが唄った櫓漕ぎ唄
・銚子大漁節(千葉県)銚子の漁民たちが大漁祝に唄った
・音戸の舟唄(広島県)音戸の瀬戸を舞台にした舟漕ぎ唄
・貝殻節(鳥取県)ホタテ貝漁で漁師が唄った

(4)酒造り
 酒造りの唄は数多くあります。酒造りそのものを唄った唄と、日本酒を造る工程それぞれで唄った唄があります。杜氏は酒造りだけでなく民謡の名手でもあったのです。
 まず酒造りを唄った唄です。
・秋田酒屋唄(秋田県) ・西条酒造唄(広島県) ・筑後の酒造り唄(福岡県)
 次に酒造りの工程で唄った民謡です。工程順にご紹介しましょう。
(道具洗い)酒造りに入る前に容器や道具を洗います。
・南部酒屋流し唄(岩手県)
(米とぎ)米を蒸す前によく洗います。
・秋田米とぎ唄(秋田県)
・会津米とぎ唄(福島県)
・西条米とぎ唄(広島県)
(もとすり)もとを作るとも言い、蒸米と麹とを摺りつぶし、半固体状の「なまもと」を作ります
・秋田酒屋酛すり唄(秋田県)
・会津酒屋酛すり唄(福島県)
・南部酒屋酛すり唄(岩手県)
・灘の酒造り酛すり唄(兵庫県)
(仕込)酛すりが終わると仕込みに入ります
・秋田酒屋仕込み唄(秋田県)
・会津酒屋仕込み唄(福島県)

(5)騒ぎ唄、お座敷唄
 遊里やお座敷で三味線や太鼓で賑やかに唄った唄を騒ぎ唄と言います。お座敷唄にはしっとりとした唄もあります
・ナット節(北海道)同じメロディで道南ナットもある
・津軽あいや節(青森県)津軽の代表的な民謡
・津軽じょんから節(青森県)あいや節と並ぶ代表的な民謡。津軽三味線の曲弾もある
・石投甚句(宮城県)宮城県の海岸地区で唄われた騒ぎ唄
・岩室甚句(新潟県)岩室町での弥彦神社の参詣客相手の騒ぎ唄
・鴨川やんざ節(千葉県)もとは鴨川漁港の地引網唄とも言われる
・木更津甚句(千葉県)木更津の花柳界で唄われた
・大島アンコ節(東京都)大島元町の花柳界で唄われた
・ダンチョネ節(神奈川県)三浦岬で唄われた
・米山甚句(新潟県)柏崎地方で唄われているお座敷唄
・山中節(石川県)山中温泉で温泉客相手のお座敷唄
・ノーエ節(静岡県)東海道の街道筋で唄われた
・岡崎五万石(愛知県)三州岡崎のお座敷唄
・伊勢音頭(三重県)伊勢神宮の門前町の花柳界で唄われた
・尾鷲節(三重県)熊野灘の尾鷲港一帯で唄われた
・淡海節(滋賀県)志賀廼家淡海が作ったお座敷唄
・串本節(和歌山県)南紀州の港町串本町で唄われた酒盛り唄
・関の五本松(島根県)美保関町の花街で唄われた
・隠岐しげさ節(島根県)隠岐の島を代表する民謡
・下津井節(岡山県)倉敷市下津井港のお座敷唄
・男なら(山口県)萩市を中心に県下で唄われた
・金比羅船々(香川県)琴平町を中心に唄われたお座敷唄
・宇和島さんさ(愛媛県)宇和島地方を中心に唄われた
・よさこい節(高知県)高知県の代表的民謡
・黒田節(福岡県)黒田藩の武士たちが唄った
・長崎ぶらぶら節(長崎県)丸山遊郭を中心に唄われた
・おてもやん(熊本県)熊本の花柳界の酒席で唄われた
・鹿児島おはら節(鹿児島県)鹿児島県を代表する民謡

 民謡の分類はまだまだ続きます。ここに出てきていない名曲が数多くあります。この続きはまたの機会にご紹介しましょう。(未完)

参考資料:
・日本の民謡 秋田・みんよう企画
・日本民謡全集@総論編 雄山閣
・インターネット ウィキペディアほか
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