今月は手賀沼通信第178号の「日本酒物語」、179号の「泡盛物語」に続く、「ビール物語」をお届けいたします。

ビール物語

 いよいよビールのシーズンとなりました。私はアルコールは何でも好きですが、家で一番よく飲むのはビールです。もっとも今は値段と健康を考えて、プリン体85%オフ、糖質70%オフの第3のビール「アサヒ オフ」を愛飲しています。アルコールも4.5%以下で、すっきりした飲み心地です。たまに普通のビールを飲むと濃く感じます。
 ただ、外で飲むのは生ビールが最高ですね。

1.ビールの歴史

(1)世界のビール
 ビールは5000年の歴史を持つ古い飲み物です。「液体のパン」とも言われ、古くから主食に近いものでした。古代のエジプトはビール王国で広くビールが飲まれていました。肥沃なナイル河畔で収穫される大麦を原料に作られたのです。
 しかし当時のエジプトのビールはホップを使わないもので、栄養のバランスに富む液体のパンとして、貴族から労働者にいたる幅広い人たちの貴重な飲み物でした。また、神への供物としても重要なものとされていました。
 メソポタミアでも古くからビールが作られました。紀元前1753年にバビロニアのハムラビ王が制定した「ハムラビ法典」によれば、ビールについていろいろな取り締まりの規則や罰則が決められていました。すでにこの時代には醸造所が各地にでき、ビアホールもありました。
 数千年の歴史を持つビールにとって、ホップ定着の歴史は比較的新しいといえます。ホップ使用以前の時代はグルートと呼ばれるハーブ混合物を添加するのが一般的でした。中世、修道院で作られたのはグルートビールでした。11世紀から12世紀にかけて、ホップビールが増加し、しばらくの間はグルートビールとホップビールの勢力争いの時代でした。
 ホップビールの勝利を決定的にしたのは、1516年ドイツ・ババリア地方に公布された「純粋法」でした。これは、ビールは麦芽(大麦)、ホップ、水によって造るべしと原料を限定した法令でした。背景にはグルートというより、イカサマビールの横行に対処した法律でした。これはいわば世界最初の「食品衛生法」としても評価され、ビールの品質、製造技術の向上に寄与し、あわせてホップの勝利を決定づけました。

(2)日本のビール
 日本でビールの製造を最初に試みたのは、1853年(嘉永6年)幕府の化学専門家であった川本幸民でした。しかし、日本人が本格的にビールに接し、多くの人が口にするようになったのは明治以降のことです。
 明治20年には東京で日本麦酒醸造会社が、21年には北海道庁から払い下げられ札幌麦酒会社が、22年には大阪で大阪麦酒会社が設立され、26年にそれぞれ日本麦酒株式会社、札幌麦酒株式会社、大阪麦酒株式会社となりました。また、横浜のコープランドビールは、その後香港法人のジャパン・ブリュワリー・リミテッドが引き継ぎ、明治21年から麒麟ビールを発売しています。現在に至る会社はいずれもこの時期に新たな出発をしています。

2.ビールにかかる税金と「発泡酒」「第3のビール」の誕生

(1)ビールにかかる税金
 ビールにかかる税金は他のお酒と比べて高く設定されています。2012年にビール酒造組合が出した「日本のビール・発泡酒・新ジャンル(第3のビール−新田注)と税」というレポートによると、「平成元年( 1 9 8 9 年)の酒税法の大幅改正により、従価税制度と級別制度が廃止となりました。また同年、物品税が廃止され、その代わりに消費税が導入されました。これによって、自動車、貴金属、電化製品などの税額が低減される一方で、酒税はたばこなどと同様、高い税率のまま残り、今日でも、消費税との二重課税というかたちで徴収されています。『ビールは贅沢な嗜好品』という明治政府の認識が、今でもそのまま続いていると言えます。」とあります。

 ビールと他のお酒の税金を比較すると次のようになります。(ビール酒造組合調べ)
コップ一杯(180ml)当たりの酒税額比較
 ・ビール(5度) 44円
 ・清酒(15度) 22円
 ・ワイン(12度) 14円
 ・缶チューハイ(7度) 14円
 ・ウィスキー水割り(9度) 16円
アルコール1度当たりの酒税額比較
 ・ビール(5度) 44円
 ・清酒(15度) 8円
 ・ワイン(12度) 7円
 ・焼酎(25度) 10円
 ・ウィスキー(40度) 10円

 また、ビールにかかる税率は国際的に見ても突出して高率・高額であり、アメリカと比較すると約14倍、フランスや本場ドイツと比較すると約15倍になっています。これは当然ビールの価格にはね返り、日本のビールは世界一高い価格になっています。

(2)発泡酒
 1994年サントリーが麦芽率を65%に抑えた発泡酒「ホップス」を売り出しました。これはビールの定義が麦芽率67%以上とされ、その税率が46.5%だったため、より低い税率が適用される発泡酒を売り出しました。そして翌1995年にはサッポロビールがより低額の「ドラフティ」を出しました。
 ところが1996年酒税法が改定され,麦芽率50%以上の発泡酒の税率はビールと同じとしました。発泡酒をねらい打ちにした改訂で、商品開発を行う企業努力を無視した行為だと大手ビールメーカーは反発しました。サントリーは酒税法変更に対し麦芽使用率を低減して麦芽使用率を25%未満にした「スーパーホップス」を1996年から市場に投入しました。
 キリンビールは1998年「麒麟淡麗」を発売、発泡酒市場には参入しないと言っていたアサヒビールも2001年発泡酒の「本生」を発売、ここに発泡酒市場は大きく拡大しました。麦芽率はすべて25%以下です。
 ところが2003年、再度酒税法が改正され発泡酒の税率が増税されました。ビールメーカーは知恵を絞って第3のビールを誕生させたのです。その後発泡酒市場は減少に転じています。

(3)第3のビール
 第3のビールとは、ビール、発泡酒とは別の原料、製法(後述)で作られた、ビール風味の発泡アルコール飲料の名称です。この種の製品を生産するメーカー各社はビールとの誤認を避けるため新ジャンルと称しています。
 糖類・ホップ・水及び大豆・えんどう・とうもろこし等を原料として発酵させたものです。ビール各社の努力によって、味わいはビールに似せて作られています。
 2004年にサッポロビールが発売した「ドラフトワン」が第1号です。サントリーからは「麦風」、キリンからは「のどごし生」が、アサヒからは「アサヒ新生」が発売されて第3のビールが出そろいました。
 第三のビールが勢力を伸ばしてくると、かつては安さが一番の特徴であった発泡酒の売上に影響が出てくるようになり、発泡酒のシェアが第三のビールに奪われていく形になりました。
 2005年税収不足に苦慮している国税庁は、今度は「第三のビール」に該当する分類について改正酒税法を断行、350ml缶で3.8円の増税となりました。その反面、ビールに対する減税も行われました。
 現在の税率は、ビール45.1%、発泡酒34.3%、第3のビール24.9%となっています。

 平成24年9月現在、家庭で一番よく飲むお酒の種類は下記の通りです。
 ・ビール 30.7%
 ・第3のビール 25.7%
 ・発泡酒 11.7%
 ・チューハイ 8.7%
 ・焼酎 7.3%
 ・その他 16.5%

 今年1月の読売新聞の記事に、「ビール4社の2013年の国内事業方針が出そろった。低価格で人気の第3のビールに重点を置き、新商品の投入などに取り組む。各社は昨年、利益率の高いビールの販売推進を打ち出したが、消費税率が引き上げられる見通しになったことで節約ムードが強まるとみて、再び第3のビールに軸足を戻す」とありました。

3.ビールの消費量
 世界のビール消費量を見てみましょう。
 国別では、人口の多さから中国の消費量が群を抜いています。また、経済成長率が高いこともビールの消費を増加させているのではないでしょうか。日本もまずまず健闘しているといえましょう。

 一方、1人当たりの消費量はヨーロッパが圧倒的です。ヨーロッパでもラテン系の国はワイン、イギリスはウィスキーなのでしょうか。
 日本は38番目、国別消費量1位の中国は49番となっています。
 以下は私の独断ですが、日本の1人当たりの消費量が多くないのは日本の食文化の多様性とアルコールの種類の豊富さにあるのではないかと思っています。和食には日本酒、焼酎、泡盛が合います。洋食ならワイン、中華料理なら紹興酒です。立食パーティやバーでならウィスキーです。ビールはどの料理にも出てきますが、ビールが絶対という決め手はありません。最初はビールで乾杯しますが、おなかが一杯になると言ってほかのアルコールに切り替える人も多いようです。

4.ビールと泡
 数多くある醸造酒の中で、炭酸ガスと泡が大きな意味を持つのはビールのみで、大変ユニークな存在と言えます。
 ワインにも、シャンパンに代表される「スパークリングワイン」のように、大量の炭酸ガスを含ませ、開栓時に音を立てて噴出させて楽しむものもありますが、泡はすぐ消えてしまいます。
 ビールの泡は、きめ細かく純白で、なかなか消えずに持ちこたえます。この泡が、グラスやジョッキに注がれたビールを酸化から防御する大切な働きをしています。飲用中にビールの香味が劣化するのを防いでいるのです。
 ビールは、タンパク質、ペプトン、ホップ樹脂、アミロースなど多種多様な成分を含んでいます。これらの成分は「コロイド」と呼ばれています。泡はビール中のコロイド物質が、気泡の発生と同時に気泡を包むように集まって薄膜を形成し、気体を包み込んだものです。したがって、コロイドの成分によって、泡の性質が大きく影響されます。 「泡の形成」と「泡の持続」の双方を備えたコロイドを作る必要があります。
 ビールメーカーは従来よりこの点に努力を重ねてきました。

5.ビールができるまで
 ここでは発泡酒や第3のビールではなく、本来のビールについて説明します。

(1)ビールの原料
 ビールの原料はそれぞれの国によって異なった使い方がありますが、日本では酒税法により、麦芽・ホップ・水のほかに副原料として、米・とうもろこし(コーン)・でんぷん(スターチ)・糖類等を使用することができます。それぞれのビールに使用された原料(水を除く)はラベルなどに表示されています。

麦芽
 麦芽は主として二条大麦(ビール大麦)からつくられます。
 ビール大麦は日本各地で栽培されていますが、現在使われている麦芽の大部分は品質、価格面で優れているカナダ、オーストラリア、ヨーロッパ各国などからの輸入麦芽です。
ホップ
ビールの原料の中で最も特色のあるのはホップでしょう。ホップは多年生、雌雄異株のつる性の植物で、ビールの醸造には雌株につく受精していない毬花を8〜9月に収穫して使います。
 現在ビール醸造に使用するホップの多くはドイツ、チェコなど海外からの輸入ホップです。

 醸造用水はビールの品質に大きな影響を与えるだけに、良質の水が得られることが工場の立地を決める際の重要な条件となっています。  一般的に淡色ビール(日本の普通のビールはこれに該当)にはカルシウム、マグネシウムや炭酸塩の含有量の比較的少ない軟水が適し、濃色ビールには硬水がよいとされています。
米・コーン・スターチ
 副原料としての米・コーン・スターチはビールの味を調整し、バランスのよいものにするのに役立ちます。これらはアメリカやヨーロッパ諸国(ドイツを除く)でも消費者の嗜好に合わせたビールを醸造する手段として広く使われています。
糖類
 スタウトビールは発酵性エキスの濃度を高くするために加糖しています。その結果アルコール分が約8%と高くなっています。

(2)製造工程

ビールができるまでの工程は、以下のとおりです。(淡色ビール)

 製造工程はコンピュータで管理され、きれいな金属のタンクでそれぞれ適切な温度に保たれます。ワインやウィスキーはじっくり寝かせると美味しくなるようですが、ビールの場合は新鮮さが勝負です。
 出来上がるまで約2〜3か月、瓶や缶に詰められて出荷されます。

参考資料:ブルーバックス「酒の科学」野尾正昭 講談社
     「ビール酒造組合」のホームページ
     「Wikipedia」のホームページ

inserted by FC2 system