今月はアルコール飲料第5弾として、「ウイスキー物語」をお送りいたします。
 アルコールをたしなまれない方から、読むだけで酔ってしまうというおしかりを受けました。大変申し訳なく思っております。あと何回かお付き合いをお願いいたします。

ウイスキー物語

1.青春時代のお酒−トリスウイスキー
 わが青春時代の思い出のお酒といえば、なんといってもトリスウイスキーです。
 高卒後1年の浪人生活を経験して19歳で大学生になりました。法律ではアルコールが許されるのは20歳からです。今もそうかもしれませんが、当時は大学生になればおおっぴらにお酒を飲んでいいという風潮がありました。今から57年も前のことです。
 お金のない学生にとって、手っ取り早く酔えるのはウイスキー、それも寿屋(今のサントリー)のトリスウイスキーでした。
 トリスウイスキーは640ml瓶が340円、一番手軽に買えるお酒でした。トリスは戦後の洋酒ブームの火付け役となったウイスキーです。「トリスを飲んでハワイに行こう」というコマーシャルが一世を風靡していました。
 盛り場には必ず「トリスバー」がありました。そこでのウイスキーの飲み方も、今のような「水割り」や「オンザロック」は少なく、ソーダ水で割った「ハイボール」か「ストレート」が多かったように思います。
 苦い思い出として、大学の保養所が妙高高原にあり体育の授業でスキーに行ったのですが、上野駅で買ったトリスを1瓶まるまる夜行列車の中で空けてしまい、翌日はスキーがほとんどできなかったという記憶があります。
 当時はビールは大瓶しかなく高くて気軽には飲めませんでした。国産ワインは甘い赤玉ポートワインしかなく、日本酒は学生から敬遠され、焼酎は論外でした。
 当時の私の望みといえばサントリーウイスキーの角瓶を飲むことでしたが、自前で買って飲んだのはあまり覚えていません。
 社会人になってからはビール中心となり、最近では、焼酎、日本酒、泡盛、ワイン、紹興酒と嗜好が広がっています。逆にウイスキーは立食パーテイで飲むくらいになってしまいました。自宅では全くと言っていいほど飲まなくなっています。

2.ウイスキーの定義
 ウイスキーの定義は各国により異なりますが、日本の酒税法では発芽させた穀類と水、あるいは発芽させた穀類・水で穀類を糖化・発酵させたアルコール含有物を蒸溜したもので、蒸溜の際の溜出時のアルコールが95度未満のものとされ、また、これに法に定められたアルコール等の物品を加えたものをいいます。

3.ウイスキーの種類
(1)原料による分類

・モルトウイスキー
 スコッチウイスキーにおいては大麦麦芽(モルト)のみを原料とするものを言います。通常単式蒸留釜で2回(ないし3回)蒸留します。少量生産に適しており、伝統的な製法ですが、大量生産や品質の安定が難しいと言われています。
 アメリカンウイスキーにおいては、大麦が原料の51%以上を占めるものを指します。
 なお、アメリカンウイスキーにおいては大麦のみを原料とするものをシングル・モルトウイスキーと呼び、スコッチウイスキーにおいては1つの蒸留所で作られたモルトウイスキーのみを瓶詰めしたものを指します。
・グレーンウイスキー
 トウモロコシ、ライ麦、小麦などを主原料にするウイスキーです。連続式蒸留機による蒸留を経るため、モルトウイスキーに較べ香味に乏しいため、通常はブレンド用として、モルトウイスキーに加えられます。
・ブレンデッドウイスキー
 モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたもので、大量生産や品質の安定に適しています。通常モルトウイスキーは1種類でなく、様々なタイプのものが微妙なバランスでブレンドされます。

(2)産地による分類
・スコッチウイスキー
 英国スコットランドで造られるウイスキーをスコッチウイスキーまたは単にスコッチと呼びます。仕込みの際に、泥炭(ピート)で麦芽を燻蒸するため、独特の香気(スモーキー・フレーバー)があるのが特徴です。
・アイリッシュウイスキー
 アイルランド(アイルランド共和国と英国北アイルランド)で造られるウイスキーをアイリッシュウイスキーと呼びます。大麦麦芽のほか、未発芽の大麦やライ麦、小麦なども原料として使用します。
 最大の特徴は、ピートによる燻蒸を行わないことと、単式蒸留器による蒸留回数が3回であることです。これにより、一般的なスコッチウイスキーよりもまろやかな味わいに仕上がります。
・アメリカンウイスキー
 アメリカ合衆国で醸造されるウイスキー。地域によって差がありますが、他の地域のウイスキーではあまり用いられないトウモロコシを原料として用いる特色があります。
−バーボン・ウイスキー
 ケンタッキー州バーボン郡を中心に造られるもので、単にバーボンとも呼ばれます。トウモロコシを主原料(50%以上79.99%まで。80%以上はコーン・ウイスキーとして扱われる)とし、内側を焼き焦がしたオーク樽で2年以上熟成させます。
−テネシー・ウイスキー
 テネシー州を中心に造られているウイスキー。広義のバーボン・ウイスキーに含まれることもあります。バーボンとの違いは、蒸留したばかりの原酒を同州産のサトウカエデの炭で濾過した後に樽で熟成することです。有名なブランドには「ジャックダニエル」などがあります。
・カナディアンウイスキー
 カナダ原産のウイスキー。トウモロコシを主原料とするベースウイスキーとライ麦を主原料とするフレーバリングウイスキーをブレンドして作られ、アイリッシュウイスキーより更におとなしい風味であることが一般的です。
・ジャパニーズウイスキー
 日本産のウイスキーは寿屋の創業者の鳥井信治郎と竹鶴政孝によって造られたと言えます。1918年よりスコットランドに留学した竹鶴によってスコッチ・ウイスキーの伝統的製法が持ち帰られたことが端緒です。竹鶴は寿屋に在籍し、1923年開設の山崎蒸溜所の初代所長となり、のちにニッカウヰスキーを創業した人物です。

4.ウィスキーの歴史
 ウイスキーは麦芽を利用した蒸留酒です。焼酎やブランデーも蒸留酒ですが、蒸留酒は醸造酒と違って比較的歴史は新しいと言えます。
 ビールやワインは紀元前から飲まれていましたし、日本酒はかなり遅いですがそれでも8世紀には飲まれていました。
 ウイスキーの歴史についてWikipediaに次のように出ていました。
「ウイスキーという名称が歴史上はじめて文献に登場したのは、1405年のアイルランドである。しかし15世紀当時は嗜好品としての飲用ではなく、薬であった。このときウイスキーは修道士たちによって製造されていた。この1405年にはポーランド・サンドミェシュ市地方裁判所の公文書で「ウォッカ」の名称が使われており、奇しくもこれがウォッカの名称に関し現存する最も古い記録である。当時のウイスキーとウォッカは同じものであった。スコットランドでも1496年に記録が残っている。
 最初に蒸留アルコールが製造されたのは8世紀から9世紀にかけてであり、その場所は中東だった。蒸留の技術は、キリスト教の修道士らによってアイルランドとイギリスにもたらされた。」
 ウイスキーの歴史についてはニッカウヰスキーのホームページにも興味深い記述がありました。
「始まりは透明な地酒
 蒸溜直後のモルトウイスキーは、無色透明で、味も香りも荒々しいものです。14〜15世紀にまでさかのぼるウイスキーの歴史の初め、スコットランドの家庭では、自家蒸溜したそんな地酒が飲まれていました。
 やがてモルトウイスキーの木樽による貯蔵・熟成の効果が発見され、酒質が飛躍的に向上し始めたのは18世紀に入ってのことです。
 重税こそ熟成の恩人?
 18世紀の初め、大英議会は、財源確保のため酒税の大幅な引き上げをスコットランドに適用。しかしそれまでごく当たり前のこととしてモルトウイスキーをつくっていた農民は、酒税の重圧から逃れるために、手近にあったシェリー酒の空樽に「密造ウイスキー」を詰めて、徴税人の目につきにくい人里離れた渓谷に隠しました。時を経てひそかに樽を開けてみると、透明だったウイスキーは琥珀色になり、味も香りもまろやかに変わっていた、といわれています。
 『コストと量』という難関
熟成によって洗練度を増したとはいえ、スコットランドのモルトウイスキーは、まだ限られた地方の酒に過ぎませんでした。モルトウイスキーは、高価な大麦を素朴な単式蒸溜器で蒸溜し、さらに樽で熟成したもの。この条件は、生産のコストと量を確保するというふたつの点で制約があり、輸出には不向きでした。
 グレーンウイスキーの出現
 比較的安価なとうもろこしなどを主体に、効率のよい連続式蒸溜機で蒸溜したグレーンウイスキーが、ようやく19世紀の中頃に登場します。昔からのモルトウイスキーと新しく生まれたグレーンウイスキーとのブレンド技術が発達し、ようやく飲みやすさの向上と、十分な量の確保、コストの低減が可能になり、スコッチウイスキーは世界の蒸溜酒になっていったのです。」

 日本におけるウイスキーの歴史は、前項で述べたように、鳥井信次郎と竹鶴政孝から始められました。それぞれを創業者とするサントリーとニッカはその後独自の発展を遂げ、技術も向上し、新商品を次々と開発、21世紀には国際的な品評会で高い評価を得ています。

 カナダのウイスキーの製造が伸びたのはアメリカにおける禁酒法が大きな契機となりました。
 アメリカは1920年に連邦禁酒法を施行したため、アメリカ国内のおけるウイスキーの醸造所が次々と廃止されました。輸入も禁止されましたが、カナダはアメリカと国境を接しているため、カナダ産のウイスキーが大量に密輸されたのです。
 結局、アメリカ合衆国で禁酒法が施行されても、ウイスキーの消費量は変わらず、この頃にアメリカ合衆国で消費されたウイスキーの3分の2はカナダ産のウイスキーであったとも言われています。カナダのウイスキー産業は大きく発展しました。
 1933年に禁酒法が撤廃されましたが、アメリカ合衆国で良質なウイスキーの生産には長い熟成期間が必要であるため、アメリカ合衆国産の良質なウイスキーの出荷をすぐに行うことは不可能でした。アメリカンウイスキーが復活してくるまでの間に、カナディアンウイスキーはアメリカ合衆国内において、確固たる評価と人気を獲得しました。

5.ウイスキー消費量の減少に歯止めがかかったか
 ウイスキーの消費量は1980年ころがピークでした。
 その後ウイスキーの消費量は減る一方、消費者の嗜好はビール及びビール代替品に移ってきました。おそらく家庭で飲むアルコールがウイスキーからビール及びビール代替品に変わってきたのではないかと思います。ここには載せていませんが焼酎やワインの消費も増えてきています。
 外で飲む場合も居酒屋やファミレスなどのお店が増え、いわゆるバーは減っているのではないかと思います。そのようなお店ではウイスキーは用意されていません。
 ただ、2010年にはウイスキーの消費が少し回復しています。おそらく缶入りのハイボールなどが伸びてきているせいではないかと思います。

6.ウイスキーの製造方法
 モルトウイスキーができるまでをニッカウヰスキーのホームページからご紹介しましょう。
・原料
 モルトウイスキーは、ブレンデッドウイスキーの香味を決定づける大切な要素。厳選された二条大麦の麦芽(モルト)からモルトウイスキーがつくられます。
・発芽・乾燥
 粒のそろった大麦麦芽を選び、水に浸けて発芽させた後、乾燥させます。乾燥させることで発芽が一定のところで止まり、大麦麦芽を粉砕するための下準備になります。ピート香と呼ばれるウイスキー独特の香りは、乾燥時に使用されるピート(草炭)をいぶすことで大麦麦芽にしみ込みます。
・糖化
 乾燥させた後の大麦麦芽を粉砕し、糖化槽に入れます。そこに約60℃の温水を加えて攪拌すると、大麦麦芽に含まれる酵素の働きが活性化し、大麦のデンプンが麦芽糖に変化します。こうして生まれた甘い麦汁が糖化液です。
・発酵
 醗酵槽に移した甘い麦汁(糖化液)に酵母を加えて、醗酵を促します。およそ72時間で麦汁に含まれた糖が醗酵し、7〜8%のアルコール分を含んだビール状の液体に変化。次の蒸溜の工程に移ります。
・蒸留
 蒸溜は発酵液からアルコールと香味を取り出すために行うもので、単式蒸溜器(ポットスチル)を使って2回行われます。初溜(1回目の蒸溜)で発酵させた麦汁は、アルコール分が20%程度の液体。さらに再溜(2回目の蒸溜)すると、アルコール分約70%の蒸溜液になります。蒸溜によって成分を取り出すことができるのは、水とアルコールの沸点に差があるため。1気圧のもとで水の沸点が100℃であるのに対し、アルコールは約78℃。この差によって、アルコールと香味成分を得ることができるのです。
 アルコールと、それ以外の望ましい香味成分を効率的に取り出すために、蒸溜器の容積や形状、加熱の手段など、多様な方法が工夫されています。
・貯蔵・熟成
 蒸溜液は樽に詰められて、貯蔵庫で熟成に入ります。蒸溜液が歳月を経て、無色透明から琥珀色に変化していく、この工程を熟成といいます。その昔、貯蔵容器、運搬容器として使われはじめた木の樽が、いまではウイスキーを熟成させるために必要不可欠になりました。代表的な樽材としてはホワイトオークが知られていますが、シェリー酒の空樽が使われることもあります。新樽を使う場合、ウイスキーの刺激臭を吸収するために、普通内側を火で焼きます。この焼き具合が、ウイスキーの熟成に微妙に影響するのです。
 熟成には樽の材質や容積、貯蔵される際の庫内での場所、積み上げる段数、湿度や温度といった要素が複雑に作用し、樽から木材成分が溶け出したり、樽材を通して空気と接触することによっても蒸溜液のさまざまな成分が変化します。
・ブレンド再貯蔵(マリッジ−結婚
 ブレンドとはモルトウイスキーの個性を際立たせながら、飲みやすくするめにグレーンウイスキーを混ぜ合わせること。グレーンウイスキーは、とうもろこしに大麦麦芽を加えてつくるもので、モルトウイスキーに比べると香味成分がはるかに少ない分、クセのない口あたりのやわらかな味わいが特徴。
 一般に、蒸溜所では複数のモルトウイスキーとグレーンウイスキーをつくり分けています。さまざまな個性を持つウイスキーをどう組み合わせるかは、ブレンダーが自身の鼻と舌で確かめながらその香りと味のバランスをとっていきます。
 ブレンドされたウイスキーはもう一度樽詰めされ、再貯蔵されます。再貯蔵により、こうした個性の違うウイスキーが深く馴染み一体化することで、バランスの取れた美味しさが生まれます。再貯蔵がマリッジと呼ばれるのもうなずけます。

参考資料:「ニッカウヰスキーの」のホームページ
    「Wikipedia」のホームページ
    「日本洋酒酒造組合」のホームページ
    「国税庁」のホームページ

inserted by FC2 system