今月は189号に続くアルコールの話題6作目「ワイン物語」をお送りいたします。
 現役時代はワインはあまり飲まなかったのですが、海外旅行でヨーロッパに行くようになってからワインが大好きになりました。ヨーロッパ旅行中は、昼食と夕食時に、必ずワインかビールをいただきました。場合によっては両方飲むこともありました。
 私は赤ワイン、白ワインどちらも好きですが、妻は白ワイン党です。妻はイタリアのシチリア島でドンナフガータ(逃げた女)社の白ワイン「Anthilia」をいただいて以来、すっかりドンナフガータのワインのとりこになってしまいました。ネットで探し時々注文しています。

ワイン物語

1.ワインの歴史
 ワイン造りを証明する最も古いものがメソポタミアの先住民のシュメール人が残した約6000年前のものと思われるロール・シール(roll seal ワインの壷などの口を粘土で塞ぎ、その上に刻印をする丸い大理石などの棒)が発見されています。
 紀元前4000〜5000年頃の出来事を記録している「ギルガメッシュ叙事詩」のなかに、ワインの記述があります。
 実際にワインを造り始めたのは、シュメール人の遺跡で発見された土器から、8000年程前と推定されています。
 紀元前3100〜1500年に栄えたエジプト王朝のピラミッドの中の壁画にぶどう栽培やワイン醸造の絵が描かれており、紀元前1700年頃の「ハンムラビ法典」にワイン取引の記述があります。
 ワインが一般化したのは紀元前1500年頃、クレタ島などエーゲ海の諸島に広がってからと考えられ、その後ギリシャ、さらにローマへと広がって行きました。当時のワインは、ぶどう果汁が濃縮され、かなりの糖分を残していましたがアルコール度数はそれほど高くありませんでした。
紀元前600年頃にはフェニキヤ人によって、南フランスのマルセイユにも伝えられ、その後、勢力を強めてきたローマ人によって、ヨーロッパ全体に広がりました。
ワイン製造技術が格段の進歩を遂げたのはローマ時代でした。この時代に現在の製法の基礎が確立しました。
中世ヨーロッパの時代にぶどう栽培とワイン醸造を主導したのは僧院でした。ワインはキリストの血とされ、キリスト教の聖餐式で重要な道具となりました。
 このようにヨーロッパではワイン造りの歴史は数千年の歴史がありますが、日本でワイン造りが始まったのは明治時代の初めからで、百数十年の歴史です。

2.国産ワインの誕生
 日本のワイン造りの歴史は明治維新後のことです。明治政府は殖産興業政策の一環として、ぶどう栽培・ワイン醸造振興策を加えました。当時、日本は米不足でしたから、米からの酒造りは節減したい意向が強かったのです。政府はヨーロッパ、アメリカからぶどう苗木を輸入し、山梨県をはじめ各地でぶどう栽培とワイン醸造を奨励しました。
 明治7年(1874年)には甲府の山田宥教(ひろのり)、詫間憲久(のりひさ)がワイン醸造を試みています。当時のワイン醸造の知識といえば、書物や来日外国人からの伝授にすぎませんでした。
 明治10年(1877年)秋、ワイン醸造法習得のため、日本人として初めて土屋龍憲(りゅうけん)、高野正誠(まさなり)の二人が本場フランスに留学しました。帰国後、この二人とともに宮崎光太郎が国産最初のワイン会社「大日本山梨葡萄酒会社」を起こしました。
 越後高田の川上善兵衛は明治24年(1891年)に岩の原葡萄園を開設し、日本の風土に適したぶどうの品種改良に情熱を傾けました。
 明治34年(1901年)には神谷伝兵衛が茨城県牛久でワイン醸造を開始し、明治36年(1903年)にフランス様式の牛久シャトーを完成させました。
 明治37年(1904年)小山新助が山梨県に登美葡萄園の造成を開始して、この葡萄園は後に現サントリーの鳥井信治郎が買収しています。
 昭和2年(1927年)に前述の川上善兵衛はマスカット・ベリーAを交配し、日本のぶどう栽培とワイン造りに大きな貢献をしています。
 しかし、本格ワイン(テーブル・ワイン)は当時の日本の食生活に受け入れられず、甘味果実酒の原料ワインとしてワイン造りが続いていました。日本産の本格ワインが少しずつ製造され始めたのは戦後になってからです。

3.ワインのためのぶどう作り
 ぶどうは生食用とワイン用に大別されます。ワイン用のぶどうは生食用より粒が小さく、皮が厚く、種子が大きく、酸味がより強くなっています。ぶどう栽培の可能な地域は年間平均気温10〜20℃の北緯30〜50度、南緯20〜40度になります。
 ワイン用のぶどうの品種はヨーロッパ系ぶどうとアメリカ系ぶどうがありますが、基本的にはヨーロッパ種です。赤ワイン用と白ワイン用にも分けられます。
 ワインは穀物酒と違って糖化を必要とせず、醸造する前にぶどう果実に対して特別な加工も不要で、圧搾と同時に発酵がおこなわれます。これは原料であるぶどうと最終製品であるワインとの距離が小さいことを意味します。つまり、ぶどうの品質がストレートにワインの品質に伝わりやすいのです。そのためいいワイン造りはいいぶどう作りから始まるといっても過言ではありません。
 樹が大きくなりすぎたり、樹になる房の数が多すぎたりすると、一つ一つの粒に与えられる栄養が少なくなってワインの品質を下げることになります。樹が大きくなりすぎないように剪定を行ったり、房の間引きをすることが欠かせません。

4.ワインの醸造法
 赤ワインと白ワインの区別は原料のぶどうの品種の違いと、醸造法の一部の違いで生まれます。
 赤ワインのぶどうは果皮に色素を十分含んだ黒ぶどうです。代表的品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ロワールなどです。
白ワインのぶどうは白ぶどうとよばれる緑色ぶどうや色の淡いぶどうです。代表的品種は、シャルドネ、セミヨン、リースリングなどです。

 赤ワインの醸造法は、黒色のぶどうを潰して、果皮を漬け込んで発酵させます。果皮から色素が抽出されて赤い色のワインになります。果皮からは色だけでなく、タンニン分も抽出されるため、赤ワインには渋みがあります。
 白ワインの醸造法は、緑色や色の淡いぶどうをプレスして得られた果汁のみを発酵させます。果皮は使いません。このため白ワインは渋みがなく、さっぱりした味わいになります。

醸造法は赤ワインと白ワインともに共通した部分が多くなっていますが、一部分だけ違うところがあります。段階を追ってみましょう。
(赤ワイン・白ワイン共通)
@徐梗 ぶどうの果実と茎を分け、余分な苦みがつかないように、茎を除きます。
A破砕 果皮を軽く破ける程度に潰し、果汁を取り出しやすくします。
(赤ワイン)
B発酵 潰したぶどうを果皮や種子とともにタンクに入れ、酵母を加えて発酵させます。28〜30℃で約1週間発酵させます。果皮から色素が出るとともにタンニンが出て、渋みコクが生まれます。赤ワインは一般に糖分がなくなるまで発酵を続けますので辛口になります。
C引抜き・圧搾 発酵が終わり、充分に色が出たら、タンクの底からワインを引き抜きます。残った果皮と種子の粕にはまだワインが多く残っていますので、圧搾してワインをとります。
(白ワイン)
B圧搾 潰したぶどうを搾って果汁を集めます。果汁には次の2種類があります。
・フリーランジュース 圧力をかけずに自然に流れ出た果汁
・プレスジュース 圧力をかけて搾った果汁。果皮の成分が果汁に影響し、多少色が濃く、渋みがつく
C発酵 果汁だけをタンクに入れ、酵母を加えて発酵させます。15〜20℃で約2週間発酵させます。渋みはなくフルーティなすっきりした味になります。発酵を最後まで行ったものが辛口、途中で止めて糖分を残したものが甘口になります。
(赤ワイン・白ワイン共通)
Dオリ引き 発酵が終わったワインは時間がたつとともに沈殿物(オリ)がタンクの底にたまります。このオリを取り除きます。
E熟成 新しく出来上がったワインを熟成させます。赤ワインは樽に詰めて1〜2年熟成させます。白ワインはタンクで熟成させて比較的早く飲むタイプと、樽で約6カ月熟成させるタイプがあります。
F瓶詰 樽熟成を終わったワインを瓶に詰め、コルク栓をしてさらに瓶熟成させます。
赤ワインは2〜5年で飲み頃に、中には10年以上をかける高級ワインもあります。
白ワインの熟成期間は一般には1〜3年です。

5.ロゼ・ワイン
 ピンク色をしたワインをバラの花の色にたとえてロゼ・ワインと呼びます。色は赤ワインと白ワインの中間の色合いですが、味はさっぱりした白ワインに近い味です。
 ロゼワインは色調の薄いものから濃いものまで、ぶどうの品種の差によって違いが生じます。味も辛口からセミスィートまであります。
 ロゼワインの醸造法はいくつかあります。
・黒ぶどうの短期かもし
 発酵の初期段階まで赤ワインの醸造法と同じようにおこなわれます。果皮を漬け込んだ発酵(かもし発酵)がはじまり、バラ色になったところで果汁を引き抜き、果皮を分離して、果汁を白ワインと同じ方法で発酵させます。
・黒ぶどうの搾汁発酵
 黒ぶどうを圧搾すると淡いバラ色の果汁がとれます。この果汁を白ワインと同じように発酵させるとロゼ・ワインができます。
・黒ぶどうと白ぶどうを混ぜて発酵
 ちょうどバラ色になるように、あらかじめ赤ワイン用のぶどうと白ワイン用のぶどうを混ぜて発酵させます(混醸といいます)

6.特殊なワイン
 一般的にワインというとスティルワイン(テーブルワイン)です。ぶどうを発酵させ、炭酸ガスを残さない非発泡性ワインです。スティル=「静かな」と言う意味で非発泡性を表わしています。食事の時に飲む一般的なワインでテーブル(食卓)ワインとも言います。アルコール度数は15度未満。色は赤、白、ロゼがあり、辛口から甘口までいろいろなタイプがあります

 それ以外に以下のような特殊なワインがあります。
(1)スパークリングワイン
 発泡性のワインのことで「シャンパン」がその代表的なものです。ビールと同じようにワイン中に炭酸ガスを含んでいて、3〜6気圧にもなります。栓を抜くと大きな音とともに勢いよくワインが吹き出します。
ドイツの「ゼクト」、イタリアの「スプマンテ」、スペインの「カバ」などが世界的に知られています。

(2)フォーチファイド(酒精強化)ワイン
 出来上がったワインや発酵中のワインにブランデーやグレープスピリッツなどを加えて、アルコール分を15〜22%に強化したものです。スペインの「シェリー」、ポルトガルの「ポート」、ポルトガル領マディラ島の「マディラ」などが有名です。

(3)アロマティックワイン
 フレーバードワインとも言われます。ワインに草根木皮、果実、蜂蜜等を添加してそれらの香味や、有効成分を楽しむものです。イタリアのヴェルモット、スペインのサングリアなどがあります。

(4)貴腐ワイン
 貴腐ワインの原料となる貴腐ぶどうは、成熟した健全ぶどうに糸状菌の一種であるポツリチス・シネレア(貴腐菌)というカビが繁殖したものです。貴腐ワインは糖分が高く、重厚で味わい深いワインです。

7.ワインの産地
 ぶどう生育地域にある約60カ国からワインが合計約2800万kl生産されています。
 主要な産地は以下の通りです。
(1)フランス
 ワインと言えばフランスです。ブルゴーニュ、ボルドーはそれぞれ「ワインの王」、「ワインの女王」と呼ばれる名産地。そこに、スパークリングワインで名高いシャンパーニュを加えた三大産地は世界的に有名です。

(2)イタリア
 世界一の生産量で、その約90%がテーブルワイン。庶民的なワインからイタリアが世界に誇る最上級ワインまで多種多様です。

(3)ドイツ
 甘口でフルーティーな白が魅力のドイツワイン。冷涼な気候のため、すがすがしい味のあるフルーティー、フレッシュで絶妙な味わいが特徴です。

(4)スペイン
 シェリー酒が有名ですが。大半がスティルワインで、リオハの赤ワインはボルドーワインにも匹敵する高品質です。シャンパンと同じ製法のカバは、高品質で手頃な価格で人気があります。

(4)ポルトガル
 フォーティファイドワインの代表的存在「ポートワイン」が有名。生産量では大半がスティルワイン、軽い発泡性をもち早飲みタイプのヴィニョ・ヴェルデのワイン、良質で熟成タイプのダンの赤ワインはドライで男性的な味わいと評判です。

(5)アメリカ
 アメリカワインの90%を占めるカリフォルニア。中でもぶどう栽培に恵まれた気候風土のナパ、ソノマは高級ワインの産地として有名です。

(6)チリ
 フランスから高級品種を、カリフォルニアから近代的な醸造法を導入。安くて、高品質。やわらかい口あたりの赤、辛口の白は日本でも人気です。

(7)オーストラリア
 世界80ヵ国以上で愛飲されているオーストラリアワイン。オーストラリアで使われているぶどう品種はヨーロッパと同じもので、高品質なワインは味も一流です。

 さて、日本もすぐれたワインを作っています。
 日本のワイナリーは全国各地にあります。国産ワイン発祥の地・山梨県を始め、北海道、山形県、長野県など全国各地で、ヨーロッパ系品種などから上質ワインが生産されています。国産ワインは日本人の味覚にピッタリで、洋食はもとより和食にもマッチしています。

8.ワインの消費量
 日本の2010年度におけるワインの消費量は果実酒規格の低アルコールを飲料を含んで、国産84,517キロリットル、輸入177,958キロリットルとなっています。
 どこからの輸入ワインが飲まれているか、2011年の輸入ワインの国別比較で見てみましょう。上の輸入量と合わないのは、果実酒が含まれていないことと暦年のためです。

 2007年の人口一人当たりの消費量です。

参考資料:ブルーバックス「酒の科学」野尾正昭 講談社
      「日本ワイナリー協会」のホームページ
      「Wikipedia」のホームページ
      「メルシャン 日本のワイン市場」のホームページ

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