今月は196号の「かんきつ類」と「メロン」に続き、果物編として「リンゴ」と「カキ」を取り上げました。

 どちらも参考文献として:
「果物情報サイト 果物ナビ」のホームページ
「Wikipedia」のホームページ
 の「リンゴ」と「カキ」編を利用しております。

リンゴ物語

 リンゴはミカンとともに、日本の代表的果物です。生産地がリンゴは寒冷地、ミカンが温暖地と分かれていることも好対照を示しています。
 私の小学生時代は、冬の果物の王様のリンゴは病気で寝込んだときくらいしか食べさせてもらえませんでした。寒いところでとれるリンゴは、物流の手段が乏しかった太平洋戦争終戦後のしばらくの間は四国では高根の花でした。

1.ロマンと西洋の歴史を感じさせるリンゴ
 赤くてつやつやしたリンゴは可愛さやロマンを感じさせます。赤ちゃんや少女の頬を「リンゴの様なほっぺ」ということがあります。
 リンゴはよく唄や物語に出てきます。ネットの代表的な辞書「ウィキペディア」でリンゴを検索すると、「リンゴが題名及び歌詞に出てくる日本の楽曲」という項目がありました。
 その一部をご紹介しましょう。
・リンゴの唄(並木路子)
・リンゴ追分(美空ひばり)
・津軽のふるさと(美空ひばり)
・リンゴ村から(三橋美智也)
・青いリンゴ(野口五郎)
 など30曲以上が紹介されていました。
 人々にロマンをもたらすスマートフォンを世の中に登場させたコンピュータ会社はアップル社です。リンゴを会社のロゴマークにしています。

 歴史については、まずアダムとイブが食べた禁断の木の実はリンゴだとされています。
 ニュートンは木から落ちるリンゴを見て「万有引力の法則」を発見しました。

 ウィリアム・テルは息子の頭の上のリンゴを矢で射るか、それとも死を選ぶかと言われ、一発で見事リンゴを射抜きました。

 リンゴそのものの歴史はトルコで紀元前約6000年前に炭化したリンゴが発見されています。紀元前1300年にはエジプトで栽培されていたと言われています。
 16−17世紀ころになるとヨーロッパでリンゴの栽培が盛んになり、17世紀前半にヨーロッパからアメリカに持ち込まれました。
 日本で本格的に栽培されるようになったのは明治時代になってからです。

2.リンゴの種類
 農林省に品種登録が維持されている品種は85種です。
 代表的なものをいくつか収穫量の多い順にご紹介しましょう。
 特に断り書きがない限り果皮は赤です。ただ種類によって赤の色が多少違います。

ふじ
 1962年に「国光」と「デリシャス」をかけて、青森県藤崎町で誕生しました。名前は誕生地と富士山にも掛けています。果実は300グラム以上と大きめで、甘みが強く歯ごたえもよく日持ちがします。蜜入りのものは特に人気があります。日本でも、世界でも最も多く生産されています。なお、栽培時に袋をかけない「サンふじ」の方が甘みが強いと言われます。出荷は10月下旬ころから。

つがる
 「ふじ」に次いで生産高が多く、果汁が豊富で甘みの強いリンゴです。「ゴールデンデリシャス」と「紅玉」を交配し、1975年に登録されました。大きさは300〜350グラム程度。「サンつがる」は「つがる」を無袋栽培したもので、甘さが強くなります。9月中旬ころから出荷されます。

王林
 果皮が黄緑色で、表面に茶色い果点があるのが特徴です。「ゴールデンデリシャス」と「印度」から生まれました。果肉は緻密で酸味は少なく甘みが強めです。大きさは300グラム前後で、特有の芳香をもっています。10月中旬ころから出回ります。

ジョナゴールド
 アメリカで「ゴールデンデリシャス」と「紅玉」を交配して誕生したリンゴです。日本には1970年に導入されました。1個400グラムと大きめで、ピンクがかった赤色の果皮は光沢があり、分泌物でべたつくことがあります。さわやかな甘酸っぱさでしゃきしゃきした食感です。10月中旬ころから出回ります。

シナノスイート
 1978年「ふじ」と「つがる」をかけあわせてできたリンゴです。親が人気品種だけあって風味がよく糖度も十分。ほのかな酸味もあって香りも良好です。

3.リンゴの統計

 世界のリンゴ生産量を見てみましょう。中国が世界の生産量の約半分を占めています。
 日本は世界の生産量の1%を占めており、順位は17番目となっています。
 県別のリンゴ収穫量です。

 青森県の生産量が群を抜いています。青森県の民謡「津軽おはら節」、「津軽じょんがら節」、「津軽よされ節」などには、いずれもリンゴ作りの作業が歌詞に入っています。
 不思議なのは広島県が12位に入っていることです。
 広島県の果物はかんきつ類が圧倒的に多いのですが、寒冷な中部山地では、リンゴの栽培が盛んです。
 なお日本におけるリンゴの作付面積は、温州ミカンに次いで2位となっています。

4.リンゴの効能
 リンゴに多く含まれている植物繊維のペクチンが消化を促進させ胃酸のバランスを整えてくれます。
 リンゴに含まれる「カテキン」には抗酸化作用があり、高血圧やがん予防、老化予防に期待できます。「ケルセチン」も動脈硬化やがん予防に有効とされます。リンゴは様々な病気の予防に効果が期待できるため、まさに「医者いらずの果物」と言えるでしょう。

5.リンゴの蜜の正体
 リンゴは蜜が入っている方が甘いといわれます。リンゴの蜜の正体は「ソルビトール」という糖質アルコールの一種です。葉の光合成によって造られる物質で、成長段階で葉から軸を通ってどんどん果実内に運ばれます。そしてソルビトールは果実の中でリンゴ本来の甘みである果糖やしょ糖に変換されます。
 しかしリンゴが完熟すると、ソルビトールは等分に変換するのをやめてしまい、そのままの状態で水を吸収します。これが「蜜」になるのです。
 つまり蜜が入っているということは、これ以上糖に変換しなくてもよいという状態までに完熟しているということです。
 蜜の入りやすい品種は、「ふじ」「北斗」「レッドゴールド」「スターキング」などがあります。「王林」や「ジョナゴールド」などは完熟しても蜜は入りません。
 蜜はしばらく保存しておくと果肉に吸収されて見えなくなることがあります。たくさん入り過ぎていると変色しやすく、保存がききにくいという面があります。

柿物語

 カキ(柿)はもともとは中国が原産で、国内では「古事記」や「日本書記」に柿の名前が出てくることから、少なくとも奈良時代には渡来していました。干し柿は平安時代にはすでに作られていたようです。

 リンゴが西洋的な果物、新しい時代の果物を感じさせるのに対して、柿は東洋的なもの、古くからあるものを思い起こさせます。
 祖母が一番好きな果物が柿でした。祖母が渋柿を焼酎につけて樽柿にしたり、干し柿にしたりしていたのを覚えています。

1.俳句に多く詠まれた柿
 東洋の代表的な果物柿は、昔から多くの俳人に詠まれてきました。リンゴとは対照的です。
 柿の季語は秋(晩秋)です。

・祖父親まごの栄や柿みかむ(松尾芭蕉)
・柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺(正岡子規)
・山柿や五六顆おもき枝の先(飯田蛇笏)
・髪よせて柿むき競う燈火かな(杉田久女)
・柿むく手母のごとくに柿をむく(西東三鬼)
・柿もぐや殊にもろ手の山落暉(芝不器男)

2.多様な柿の利用
食用としての柿

 柿の種類は多く、1000を超えるとも言われますが甘柿と渋柿に大別されます。
 渋み成分「タンニン」が口の中で溶けなければ、甘くなり、とければ渋くなります。
 柿に含まれるビタミンCの量は日本人がよく食べる果物の中ではトップクラスです。
甘柿
甘柿は渋柿の突然変異種と考えられており、日本特産の品種です。1214年に川崎市の王禅寺で偶然発見された、禅寺丸が日本初の甘柿です。
甘柿には、熟せば常に甘みを持つ完全甘柿と、成熟時に渋が残ることがある不完全甘柿があります。

渋柿
 渋柿は実が熟しても果肉が固いうちは渋が残る柿です。
 渋柿にも完全渋柿と不完全渋柿があります。
 渋を抜くには次のような方法があります。
@干し柿にする。あんぽ柿、市田柿はその例です。
Aアルコール漬けにする。(樽柿)
Bアルコールをかけ容器に密封して1週間置く。
C35〜45度の湯につける。
D米・米糠に漬ける。
E容器にリンゴと一緒に入れて密封し1週間置く。

柿渋
 紙に塗ると耐水性を持たせられます。和傘やうちわなどに塗ったり、塗料にもなります。

柿のヘタと葉
 ヘタを乾燥したものは生薬になります。
 葉は薬用のお茶にしたり、柿の葉寿司に利用したりします。

木材
 木質が堅いため、家具や茶道具や桶などに使われます。金属製のウッドが出るまでは、ゴルフクラブのウッドのヘッドに使われました。

3.柿の種類
 代表的な柿の種類をいくつか生産量の多い順にご紹介しましょう。

富有(ふゆう)
 甘柿の代表品種で、生産量は市場の半分以上を占めます。原産は岐阜県、1857年より栽培されています。果皮はオレンジ色、果肉は軟楽くて果汁も多く、甘みが強いのが特徴です。日持ちはよく10月下旬より出回ります。

平核無(ひらたねなし)
 「種なし柿」として出回っている品種で「庄内柿」や「おけさ柿」とも呼ばれます。不完全渋柿ですが、出荷時に渋抜きを行うことで甘くなります。果汁が多くてやわらかく、甘くてまろやかな口当たりです。形は四角ばった扁平で10月中旬ころから出回ります。

刀根早生(とねわせ)
 「平核無」の枝変わりで1980年に登録されて渋柿です。外観は平核無と変わりません。渋抜き後は甘く、食味は良好です。他の柿の比べて出荷が早く、9月下旬ころから出回り、ハウス栽培のものは7月から出荷されます。

甲州百目(こうしゅうひゃくめ)
 釣鐘形をした不完全渋柿で大きいものだと500グラム以上になります。主に山梨県や福島県で栽培されていて、渋抜きをして生食するほか、あんぽ柿や枯露(ころ)柿にも利用されます。別名「富士柿」や「蜂屋柿」とも言われます。

次郎
 背が低く四角ばった円形をした完全甘柿。静岡県原産で1844年頃から栽培されています。「富有」に次いで人気のある柿で、種はほとんどなく果実はやや固めで甘く歯触りのよい食感です。収穫時期は10月下旬からです。

市田柿(いちだかき)
 長野県で生産されている完全渋柿。古くから下伊那郡高森町(旧市田村)で栽培されていたことからこの名前になったそうです。形は紡錘状で重さは100〜120グラムと小さく、主に干し柿として利用されます。上品で濃厚な味が楽しめます。なお「市田柿」は商標登録されていて、飯田市と下伊那郡で生産・加工された市田柿の干し柿がこの名前を使えます。

4.柿の統計
 柿は北海道と沖縄以外の各県で栽培されています。日本での柿の作付面積はリンゴに次いで3位となっています。ただ、家庭の庭でなっているのは、柿がミカンやリンゴより多いと感じるのは私だけでしょうか。

 各県別の収穫量です。

 リンゴの場合は青森県と長野県で全国のりんごの77%をしめていますが、柿の場合は和歌山県と奈良県で全国の柿の3分の1を生産しています。
 もともとこの地区は甘柿の生産に適した地でしたが、昭和50年代を境に平核無などの渋柿の栽培に移行しています。


 世界の柿の主な生産地です。

 これでみると柿はアジアの果物ということが分かります。 日本は3位になっています。


 日本から外国への柿の輸出は下記の通りです。

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