くだもの物語の4回目としてブドウとナシを取り上げます。

参考文献:
「果物情報サイト 果物ナビ」のホームページ
「Wikipedia」のホームページの
「ブドウ」と「ナシ」編
「種なしブドウの誕生(2)」JATAFFのホームページ

ブドウ物語

 私が小学生や中学生のころ、ブドウといえば小粒で赤紫色の「デラウエア」か、それより粒が大きく紫黒色のものが主でした。名前は分かりませんでしたが、2つ目のものは、歴史を調べてみるとおそらく「キャンベル・アーリー」ではないかと思います。
 どちらもしっかり種が入っており、種を吐き出すのが面倒でした。ブドウはそんなに好んで食べなかったように思います。
 しかしデラウエアが最初の種なしブドウとなって登場してから、ブドウを見直すことになりました。
 学生時代、東京から愛媛県の実家に帰る途中、岡山駅で停車します。岡山駅では、ブドウの女王と言われた「マスカット・オブ・アレキサンドリア」が売られていました。学生の身分には高値の花でした。サラリーマンになったら買おうと思いながら帰省したのを覚えています。
 その後「巨峰」や「ピオーネ」や「シャインマスカット」など、甘くておいしいブドウが出回るようになり、種なしや皮ごと食べられるブドウが増えました。

1.ブドウの利用と生食用としてのブドウ
 ブドウの品種は、世界には1万種ほどあると言われるほど多いですが、日本では50〜60種類ほどが栽培されています。ブドウはそのまま食べるほか、乾燥させてレーズンに、ワインやブランデーなどのアルコール飲料に、また、ジュース、ジャム、ゼリー、缶詰などに利用されます。
 世界のブドウ生産量のうち、71%がワイン生産用、27%が生食その他用に、2%がレーズン生産用となっています。
 ヨーロッパを旅行したとき、いろいろな国でブドウ畑を見ましたが、すべてワインのためのブドウ畑でした。中国の敦煌などシルクロードでは、レーズンの製造と販売の現場をよく目にしました。
 これに対し、日本で生産されるブドウは生食用が約90%、ワインやその他の加工用は約10%です。
 ブドウは果皮の色によって、「赤」、「黒」、「緑(白)」の3つに分かれます。未熟なうちはどれも緑色ですが、熟す間にそれぞれの色に替わります。
 ここでは、ブドウの歴史を除いて、生食用のブドウに焦点を絞ってまとめるつもりです。

2.ブドウの歴史
 ブドウの栽培の歴史は古く、紀元前3000年頃にはコーカサス地方やカスピ海沿岸でヨーロッパブドウの栽培が開始されていました。ワイン用でした。
 古代ギリシャやローマ帝国の時代にはワインのためのブドウ栽培が各地に広まりました。ローマ帝国崩壊後は栽培が衰退し、各地の修道院などで少量生産されました。
 その後再びヨーロッパ各地で栽培されるようになり、大航海時代には南アフリカやチリにもワイン用のブドウがもたらされました。
 北アメリカにはアメリカブドウがありました。ただ独特の香りがあったため、ワインには不向きでした。北アメリカにもワイン用にヨーロッパブドウが持ち込まれましたが、アメリカの病害虫に弱くうまく育ちませんでした。
 19世紀にアメリカブドウの苗木にヨーロッパブドウを接ぎ木する方法でワイン用ブドウが栽培されるようになりました。
 一方アメリカブドウからは多くの生食用ブドウが生まれています。
 日本へは中国を経て入ってきたヨーロッパブドウの東アジア系が、鎌倉時代初期に甲斐の国で栽培され始めました。
 明治時代になると欧米から新品種が次々と導入されました。乾燥を好むヨーロッパブドウは日本での栽培にほとんど失敗しました。一方アメリカブドウの多くは日本の気候に合い、生食用として栽培されました。
 特に普及したのがデラウェアとキャンベル・アーリーでした。

3.生食用ブドウの種類
 果物ナビのホームページには23種の生食用ブドウが出ています。その中のいくつかを選びました。

巨峰
 「石原早生」と「センテニアル」を交配し、1942年に誕生しました。果皮は濃い紫黒色をしていて、果肉は淡い緑色。しまりがある果肉は甘みが強く、果汁も豊富。1975年以降には「種なし巨峰」の生産も開始され、今では黒ブドウの定番品種となっています。成熟期は8〜9月頃。

デラウェア
 粒は小さく香りは控えめですが、果汁が豊富で糖度が高く、種もなく食べやすい品種です。1850年頃アメリカで発見され、1855年頃にオハイオ州デラウエアで命名されました。日本には1872年(明治5年)頃に導入されました。旬は7〜8月頃ですが、ハウス物は5月頃から出回ります。

ピオーネ
 「巨峰」と「カノンホール・マスカット」を交配して作られたブドウで、1973年に登録されました。大粒の紫黒色で、1粒15〜20gほどの重さになります。甘みと酸味のバランスがよく、キュッと締まった歯触りの良い食感と上品な風味が楽しめます。時期は8〜10月頃。ピオーネは種なしと種ありがあります。主産地は岡山県、山梨県、長野県など。

キャンベル・アーリー
 アメリカ生まれの黒ブドウで、「ムーアアーリー」と「ベルビデレ×マスカット・ハンブルグ」の交配品種です。1892年に誕生し、日本には1897年(明治30年)頃に導入されました。1粒の重さは5〜6gと小さめで糖度は15℃前後。甘みの中に適度な酸味があり濃厚な風味が楽しめます。シーズンは8〜9月頃。おもに北海道や青森県で栽培。

ナイアガラ
 甘くて香りのよい緑系のぶどうです。「コンコード」と「キャサディ」の掛け合わせで、1893年にアメリカで誕生し、明治26年ころ日本に伝わりました。1粒の大きさはやや小さめですが、果汁が豊富で風味がよく、生食はもちろん、ワインの原料にもなっています。主産地は北海道や長野県です。

4.ブドウの統計
 ブドウの各県別収穫量は下表のとおりです。
 やはり歴史のある山梨県がトップですが、北海道から九州まで全国的に栽培されています。
 甲州、甲斐路、安芸クイーン、ナガノパール、など、生産県の名前が入ったものはその県の特産品です。
 品種別の作付面積です。
 巨峰がトップの座を占めています。

5.種なしブドウ誕生記
 種なしブドウが誕生したのは、昭和34(1959)年です。ジベレリン処理によるデラウエアの種なしブドウが、山梨県農試果樹分場、国の園芸試験場、長野農試、京都農試などで実りました。
 昭和32年全国の試験場が参加した「ジベレリン研究会」が発足、ブドウを含む各種農作物を対
象にしたジベレリン試験がスタートしました。そのわずか2年後、デラウエアの種なしブドウが実現したのです。
 昭和35年には220ヘクタール分の種なしブドウが出荷されました。種ありデラウエアの2倍の値段で取引されたと言われています。
 ジベレリンは植物ホルモンです。ブドウの花の満開前と満開後に、ジベレリン液に1房ずつ浸すことによって種なしブドウになります。
 デラウエアに始まった種なしブドウは、ほかの品種に広がっており、生食ブドウといえば種なしが当たり前になっています。

ナシ物語

 ナシはどちらかといえば地味な果物です。皮や実の色から来ているのかもしれません。千葉県に住んでいながら、最近まで千葉県が全国1のナシの生産県ということを知りませんでした。
 ナシについては特に印象に残る思い出はありませんが、愛媛県に住んでいた子供のころ、甘いお菓子が少なかったので、ナシが甘くておいしかったのは覚えています。食べたナシは長十郎か二十世紀という種類だったと思います。
 子供たちが小学生だった頃、一度だけナシ狩りとクリ拾いのイベントに行きました。ナシは2つも食べるとおなかいっぱいになり、ナシ狩りよりもクリ拾いに懸命になったのを覚えています。
 ナシには日本ナシと中国ナシと西洋ナシがあります。ここでナシと言っているのは日本ナシです。中国ナシはあまりなじみがないので省略します。西洋ナシは最後に簡単に取り上げましょう。

1.ナシの歴史
 日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代ころとされ、登呂遺跡などから証拠の種などが見つかっています。文献にはじめて登場するのは日本書記です。
 江戸時代には栽培技術が発達し、100を超す品種が果樹園で栽培されていました。
 明治時代には千葉県松戸市で二十世紀が、神奈川県川崎市で長十郎が発見され、その後長らくナシの代表格として生産されるようになりました。一時期は全国の栽培面積の8割を長十郎が占めるほどでした。
 戦後になると、1959年に幸水、1965年に新水、1972年に豊水が登場しました。現在では栽培面積は幸水と豊水がベスト2となり、長十郎は11位となってしまいました。

2.ナシの種類
 日本のナシには、果皮が茶色い「赤梨」と果皮が緑色の「青梨」があります。赤梨は成熟すると果皮にザラザラの斑点が目立ちますが、これは水分を果実に閉じ込めておくためのコルクの役割をしています。

幸水
 「菊水」と「早生幸蔵」を交配し、昭和34年に登場した赤梨です。現在では日本ナシの40%を占めています。果実が250〜300gの扁円形で、おしりの部分が大きくへこんでいるのが特徴です。柔らかい果肉には果汁がたっぷり含まれ、一口食べると強い酸味が広がります。果皮は主に褐色ですが、やや黄緑がかったものもあります。出荷は8月上旬ころから。

豊水
 350〜400gになる大きめの赤梨で、幸水と並んで生産量の多い品種です。「幸水」×「石井早生×二十世紀」の交配種と言われています。日持ちがよく、果肉はやわらかで多汁。甘みの中に適度な酸味もあります。8月下旬ころから店頭に並びます。

新高
 新潟県の「天の川」と高知県の「今村秋」を交配し、それぞれの地名をとって昭和2年に「新高」と名付けられました。サイズは平均450〜500gで、大きなものは1kgにもなる赤梨です。酸味が少なく、みずみずしく、甘く、特に高知県など温暖な土地で栽培されたものは糖度が高いようです。9月上旬ころから出回ります。

二十世紀
 明治21年千葉県で発見され鳥取県のブランド梨としても有名な青梨です。果皮はきれいな黄緑色でサイズは約300gの中玉。多汁でシャリシャリした果肉は甘味と酸味がバランスよく調和しています。なお「ゴールド二十世紀」は病気に強い品種として二十世紀を改良したものです。

あきづき
 平成13年に登録された品種で、「新高×豊水」×「幸水」。主要品種3つの優れたところを併せ持っています。果実は約500gとやや大きめで、果肉は緻密で糖度が高く、酸味は少なくシャリシャリとした食感です。9月下旬ころから出回ります。

3.ナシの統計
ナシの各県別収穫量は左図のようになっています。
ナシは沖縄県を除く日本各地、北海道から鹿児島県まで広く栽培されています。
そのため主要産地での収穫量におけるシェアはそれほど高くなく、上位10県の合計でも6割弱となっています。
 ナシの品種別作付面積は左の表のとおりです。
 幸水は茨城県産がトップで、続いて千葉県産、福島県産となっています。

4.西洋ナシ
 洋ナシとも言われ、日本ナシが丸い形をしているのに比べ、やや縦に長く、いびつで独特な形(びん型)をしています。
 熟した果実の味は、芳醇で甘く、食感はまろやかで、和ナシのようなシャリシャリ感はありません。ただし、収穫直後は硬く、甘みはあまりありません。追熟させることが必要です。
 追熟させるために一定期間置くと、日本で多く栽培されている緑の洋ナシの果皮が黄色になり、強い芳香を発するようになります。

 西洋ナシはもともと温帯ヨーロッパや西アジアで原生していたと言われ、古代から栽培がおこなわれていました。ドイツやイギリスで栽培されるようになったのは16世紀ころと言われています。
 日本へは明治時代に伝わりましたが、栽培の難しさと見た目の悪さから定着はせず、昭和後半頃からようやく広まりました。
 日本の風土は洋ナシの生産に不向きのため、収穫量は第1位の山形県で6割、長野県、青森県、新潟県、岩手県、福島県の上位6県で9割以上を占めています。

 品種は非常に多く、4000品種ほどあるようですが、日本で栽培されているものは、稀少なものを含め20品種程度です。

ラ・フランス
 フランスが原産で1864年に発見された品種です。日本における生産量の65%ほどを占めており、洋ナシの代表格です。甘みの中にほんのり酸味があり、果汁たっぷりの果肉はとろける様な口当たりです。10月下旬ころから出荷されます。

ル・レクチェ
 フランス生まれで、緻密な果汁は糖度が高く、ジューシーで滑らかな食感です。収穫時期は10月下旬ころですが、追熟に1ヶ月ほどかかるため、市場に出回るのは11月下旬ころからです。

バートレット
 イギリス原産で、世界的にも生産量の多い品種です。甘みの中に程よい酸味があり、滑らかな舌触りが特徴です。

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