今月号はくだもの物語の5回目です。 果物は日本のスーパーでも、海外の市場でも、店頭の一番目立つ所に置かれているケースが多いように感じます。色彩が豊かで香りもよく、店頭に並べるものの切り札なのかもしれません。
5回目はモモ、クリ、スイカを取り上げます。4回目までは1回につき、2種類の果物を取り上げましたが、モモ、クリ、スイカはやや話題が少ないので3種乗り合わせとなりました。

参考文献:
「果物情報サイト 果物ナビ」のホームページ
「Wikipedia」のホームページ
の「モモ」と「クリ」と「スイカ」編

モモ物語
1.モモの思い出

 モモといえば、幼い頃祖母から聞いた桃太郎の鬼退治の昔話です。桃から生まれた桃太郎が、犬、猿、キジを従えて、鬼が島の鬼を退治するという童話は、絵本でも読んだ記憶があり、その姿を思い出すほど強烈なインパクトを与えたのでしょう。
 今はどうなっているのか分かりませんが、私の幼いころはふるさと愛媛県ではひな祭りは1月遅れの4月3日でした。ちょうどモモの花が咲いており、桃の節句という言葉がぴったりでした。端午の節句も1月遅れの6月5日でした。
 モモの甘い香りととろけるようなおいしさも、なぜか幼い記憶として残っています。おそらく最近あまり桃を食べなくなったせいかもしれません。
 モモの花の美しさを感じたのは、東京都中推協のイベントで、平成11年4月初旬に「ふるさとまるごと体験」で山梨県豊富村を訪ねたときです。モモとスモモとサクラの花が美しさを競っていました。

2.モモの歴史
 モモの原産地は中国の黄河上流の高山地帯です。ヨーロッパへは紀元前4世紀ころにシルクロードを通り、ペルシャ経由で伝わりました。
 日本では、長崎県の多良見町の伊木力遺跡から、縄文時代前期の日本最古のモモの種が出土しています。縄文時代から弥生時代にはすでに食べられていたようです。記録としては古事記や万葉集にも登場しています。
 平安時代、鎌倉時代、江戸時代には主に薬用・鑑賞用として用いられたようです。
 明治時代に甘みの強い水蜜桃系が輸入され、食用として広まりました。現在日本で栽培されている品種は、この水蜜桃系を品種改良したものがほとんどです。

3.モモの種類
あかつき
 日本で作付面積の一番多い品種です。「白桃」と「白鳳」を交配させた品種で1979年に登録されました。糖度が高く、果肉は緻密で溶質ながら歯ごたえのあるモモです。収穫時期は7月下旬ころで、サイズは250〜300gくらいです。

白鳳
 作付面積2番目の品種です。「白桃」×「橘早生」として神奈川県で1933年に登場しました。果肉は白く柔らかな口当たりで、サイズは250〜300gくらいです。酸味は少なく多汁で、上品な甘さを持っています。収穫時期は7月中旬〜8月上旬ころ。

川中島白桃
 長野県川中島で偶然誕生した品種で1977年に命名されました。大きさは250〜350gと大きめで、果肉がややかたく歯ごたえがあり、日持ちがよいのが特徴です。糖度が高いので、甘くてかための好きな人にお勧めです。8月上旬ころから収穫されます。

日川白鳳
 7月上旬から収穫される早生種です。1973年に山梨県で発見されました。果汁が多く、糖度も高め、果肉は程よいかたさを持ち、大きさは250g前後です。

清水白桃
 岡山県や和歌山県で生産されている品種で、果皮も果肉も白っぽいのが特徴です。1932年に岡山県の桃園で偶然に発見されたと言われています。果肉はやわらかく多汁で甘味も十分。果重は250〜300gくらいで7月下旬〜8月上旬に収穫されます。

浅間白桃
 「高陽白桃」の枝変わりとして山梨県で誕生し、1974年に登録された品種です。果肉が緻密でやわらかく、果汁も豊富で甘いのが特徴。300g前後から大きいものは400g以上にもなります。出回るのは7月下旬〜8月上旬ころです。

4.モモの都道府県別統計
 モモの都道府県別の収穫量の上位6番目までの順位です。
 山梨県が全体の約3分の1を占めています。
 4月初めに中央高速道路の山梨県を通ると満開の桃の花の景色を見ることができます。
5.モモの栄養と効用
 モモの主な栄養成分は植物繊維、カリウム、ナイシアン、カテキンです。
 モモの植物繊維には整腸作用のあるペクチンが豊富なので便秘改善に効果が期待されます。便秘は肌荒れやストレスにもつながるので、美容効果もあります。植物繊維は大腸がんの予防にもなります。
 カリウムは血圧を下げる作用があり高血圧予防になります。
 ナイシアンは冷え症や二日酔いに効能があります。
 ポリフェノールの一種であるカテキンはがん予防や老化予防にも期待できます。

クリ物語
1.クリの思い出
 クリもこどものころの印象が強烈です。クリが出回る頃は、一番手軽なおやつだったように思います。ゆでたクリを歯で割って、スプーンで実をほじくって食べました。今のようにお菓子やスイーツなどがなかった時代でした。
 皮をむいたのを砂糖で甘く煮たクリは最高のぜいたくでした。
 山や森に出かけてクリ拾いをしたのも懐かしく思い出されます。クリのいがを足先で抑えて、丸々と太ったクリをとりだすのは、幼い子供にとってはエキサイティングな行動でした。
 最近ではクリはケーキの上に乗ったのをいただくくらいです。

2.世界のクリ
 クリは世界的にみると4つに分けられます。
ニホングリ
 野生のシバグリ(芝栗)を品種改良したもので、果実が大きく風味がよいのが特徴です。しかし甘みがやや少なく、渋皮がはがれにくいのが難点です。

チュウゴクグリ
 天津甘栗の原料がその代表です。甘くて渋川もむきやすいですが、果実が小さくて、クリの害虫である「クリタナバチ」の被害を受けやすく、日本では栽培されていません。

ヨーロッパグリ
 小ぶりながら渋皮がむきやすいのが特徴です。これも病気や害虫による被害を受けやすいため日本では栽培されていません。

アメリカグリ
 果実の品質がよく、また大きくて強い木が木材として使われるほど利用価値の高いものでしたが、1900年頃に「栗胴枯れ病」の被害によりほぼ壊滅したと言われています。今も一部の地域で栽培されていますが、病気に弱いので日本では栽培できません。

3.クリの歴史
 クリの歴史はとても古く、縄文時代の「三内丸山遺跡」(青森県)からも多くのクリが出土しています。
 平安時代の初期には丹波地域で栽培され始め、徐々に地域が拡大していきました。古事記や日本書紀にもクリが出ています。
 その後日本各地で栽培されていましたが、昭和16年頃に発見された害虫「クリタマバチ」による被害が拡大しました。
 それ以降はクリタマバチに抵抗性を持つ品種が育成され栽培されています。

4.クリの種類
筑波
 日本で最も広く栽培されている品種です。「岸根(がんね)」と「芳養玉(はやだま)」の交配種で1959年に命名されました。甘みのある果実は粉質で香りがよい品質です。果皮は赤褐色で光沢があり、果重は20〜25gと大きめ。貯蔵性がよく加工用原料としても使われています。収穫は9月中旬ころから10月頃まで。

丹沢
 8月下旬ころから店頭に並ぶ早生種の代表が丹沢です。「乙宗(おとむね)」と「大正早生」の交配種で1959年に命名登録。北海道と沖縄を除く各地で栽培されています。果重は20〜25gと大きめで果皮は淡褐色、果実は粉質です。甘みと香りは控えめです。

銀寄(ぎんよせ)
 果重は20〜25gと大きめで、果実は粉質で甘みが多く風味も豊か。ただ貯蔵性にはやや劣るため加工用品種としては不向きです。収穫は9月下旬ころから。「丹波栗(ブランド品)」の代表品種でもあります。
石鎚(いしづち)
 10月上旬から出回る晩生種。「岸根」と「笠原早生」の交配種で1968年に命名されました。赤褐色で光沢のある果皮が特徴です。果重は25g前後とやや大きく果実は粉質で甘みも香りもあります。日持ちがよく、煮崩れも少ないので加工用原料としても適しています。

利平
 9月中旬から下旬ころがシーズンの中生種で、ニホングリとチュウゴクグリの一代雑種と言われています。1950年に登録されました。粉質の果実は甘さがあり、蒸し栗にお勧め。しかし肉質がもろいため、シロップ漬けなどの加工には適していません。果皮は光沢ある暗褐色で果重は20〜25g前後。

5.クリの都道府県別統計
 クリの都道府県別の収穫量の上位6番目までの順位です。
 茨城県が全体の約4分の1を占めています。
 日本ではほぼ全都道府県で栽培されています。

6.クリの栄養と効用
 クリの主な栄養成分は、カリウム、葉酸、植物繊維、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6です。
 クリにはカリウムが豊富に含まれているので、高血圧や動脈硬化などの予防に効果があります。 
 また造血作用のある葉酸も含まれていて、貧血予防や葉酸を多く必要とする妊婦にも最適です。
 植物繊維は便秘改善に約立ち、ビタミンCは風邪予防や美容効果があります。クリのビタミンCはでんぷん質に含まれているので、熱による損失はそれほどありません。
 疲労回復に役立つビタミンB1、細胞の成長を促進し老化予防によいとされるビタミンB2、アミノ酸の合成や代謝に必要なビタミンB6なども豊富に含まれています。

スイカ物語
1.スイカの思い出
 スイカも子供の頃の思い出です。冷やすのは井戸でした。冷蔵庫などない時代です。ロープにつるした竹のかごやあみに丸ごと入れて、そっと井戸に入れました。食べるときはそれを引き揚げ、三日月型に切って、上半身裸になってかぶりつきました。着ているものを汚さないためです。スイカは真夏にしか食べられなかったので、裸で食べるものと決めていました。
大家族だったので、まるまる1個のスイカが余ることはありませんでした。
今は1個をまるごと買うと冷蔵庫に入れることができず、また家族の人数が少なくなっているため、1/2、1/4、1/6などにカットしたものを買うのが通常になっています。
団体で海水浴に行くと、スイカ割りは外せぬ行事でした。目隠しをして棒でスイカを割ったときはヤンヤの喝采でした。

2.スイカの歴史
 スイカは紀元前5000年にはすでに南アフリカで栽培されており、3000年前にのエジプトでも栽培がおこなわれていました。10世紀には中国に伝わり、日本には16世紀後半ころに渡来したと言われています。
 西瓜の漢字は中国語の西瓜に由来します。

3.スイカの種類
大玉すいか
 ポピュラーなスイカで、甘くてシャリっとした歯触りのよい食感が楽しめます。主な種類としては「縞王」、「富士光」、「早生日章」、「甘泉」、「祭ばやし」などがあります。重さは平均3〜5kgで大きいものでは7〜9kgにもなります。

小玉すいか
 重さが1.5〜3kgと小さく冷蔵庫に入れやすいスイカです。外見や味は大玉と変わりませんが、果皮が薄いので、可食部分が多く甘みもあります。主な種類に「紅小玉」、「ひとりじめ」、「姫甘泉」などがあります。

黄色すいか
 果皮が緑で果肉が黄色のスイカ。クリームスイカとも言われます。かっては甘さが控えめでしたが、最近のものは糖度が高くシャリシャリとした歯触りが楽しめます。種類としては大玉で皮が黒い「おつきさま」のほか、小玉の「おおとり」や「ひまわり」などがあります。

マダーボール
 ラグビーボールのような楕円形のスイカで皮が薄く甘みがあります。大きさは2〜4kgの小玉です。種類には「姫まくら」、「紅まくら」などがあり、さらに皮が黒い「黒美人(はちきん)」もあります。

でんすけ
 深緑色の表皮を持つ一風変わったスイカで、みずみずしい真っ赤な果肉はシャリっとした食感で美味。高級スイカとして贈答品にもよく利用されます。似たような黒いスイカに「ダイナマイトスイカ」もあります。

4.スイカの都道府県別統計
 スイカの都道府県別の収穫量の上位6番目までの順位です。
スイカは全国の各県で栽培されており、ほかの果物と比べると、上位の県のシェが低くなっています。

5.スイカの栄養と効用
 スイカの主な栄養成分はカリウム、βカロテン(赤肉スイカ)、リコピン(赤肉スイカ)、シトルリンです。
 西瓜はカリウムやアミノ酸の一種であるシトルリンの作用により、むくみや利尿作用に効果があると言われます。この成分は特に皮(白い部分)に多く含まれるので皮を炒め物などにすると効果的です。
 カリウムには血圧の上昇を抑える働きもあるので高血圧予防にも効果が期待できます。
 また赤肉スイカの色素にはカロテノイドのβカロテンとリコピンが含まれていて、がんや老化を予防する抗酸化作用があるとされます。

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