日本ではにぎり寿司のネタはなんといってもマグロが一番人気ですが、海外ではサーモンが一番と聞いたことがあります。日本でも回転寿司では子供たちもサーモンをよく食べています。

参考資料:
「最新のサケ学」帰山雅秀 成山堂書店
HP「Wikipedia サケ」
HP「Wikipedia マス」
HP「Wikipedia サケ類」
HP「サーモンミュージアム」
HP「水産総合研究センター」

サケ、マス物語

 サケの思い出はなんといっても子供の時食べた塩じゃけです。四国の愛媛県では塩じゃけは高級品で、滅多に口にできませんでした。
 いつ、どんな機会に食べたかは覚えていませんが、食べたことだけは記憶に残っています。イワシやアジの干物と違って、身の厚さと色と塩味が高級感がありました。
 マスはニジマス釣りです。手賀沼の西の端に手賀沼フィッシングセンターがあります。長男が小学生のころそこでよくニジマスを釣りました。家に持って帰って焼いて食べたのを覚えています。

1.サケとマスの違い
 サケとマスの違いはやっかいです。参考資料を見ても少しずつ説明が違っていて明確な定義が理解できませんでした。
 「最近のサケ学」には、「サケ属魚類は、世界で現在8〜14種と考えられている。サケ属魚類の分類は、混乱の歴史であり、種数を特定できないほど難しい。」と出ています。
 英語ではsalmonとtroutという言葉があり、英和辞典を引くとsalmonはサケ、troutはマスという訳が出てきます。ところがそれほど単純ではないのです。
 日本ではサケは古来はシロザケだけを指す言葉でした。ところがその後、ベニザケ、ギンザケ、が出てきました。
 マスについては、例えばマスノスケはking salmonのことであり、カラフトマスはpink salmonのことで、名前と違ってサケ類として扱われています。
 さらに日本の回転寿司屋では、サケやマスでなくサーモンという名前で登場しています。
 HP「Wikipedia サケ類」には、「今日の都市部の日本人の多くには、漁獲が激減しているサクラマスは身近ではなくなり、マスと言えば観光地のニジマス釣りの方が想像しやすくなっていると言えよう。そのため、海から遡上してくる大きなサケに、清流に住む小さなマスという印象もまた、支配的になっている。」と出ていました

2.サケの種類
シロザケ
 日本では昔からサケまたはシャケとはシロザケのことでした。アキサケ、アキアジ、トキシラズなどとも呼ばれます。
 全長は約60〜80センチ。北太平洋、日本海、ベーリング海、オホーツク海、アラスカ湾全体、北極海の一部に分布。日本での遡上は、太平洋側では利根川以北、日本海側では山口県以北の河川になります。
日本の河川から海洋に出たサケを日本系サケといいますが、オホーツク、カムチャッカ、ベーリング海を回遊し、最も東側のアラスカ湾まで移動するという調査報告もあり、長距離を大回遊して日本の河川に戻ってくると言われています。
一般には、3回の冬を北洋で過ごし、4歳魚で回帰します。また、3歳魚、5歳魚も多く、まれに6歳魚となって回帰するものもあります。
山漬、塩引き、塩焼き、新巻ザケ、イクラ、さけフレーク(びん詰)にも使用されます。

ベニザケ(降海型)、ヒメマス(陸封型)
 ベニザケはサケ、マスの中で最も高級なものとされています。
北大西洋、ベーリング海、オホーツク海に分布しています。アジアでベニザケが遡上する川は、南千島からオホーツク海沿岸を経て、アナディル湾沿岸の河川です。北アメリカでは、カリフォルニア州沿岸からアラスカ州北部沿岸の河川です。 特にカナダのバンクーバーに流入するフレーザー川上流のアダムス川は有名です。
 また、湖沼残留型では、北海道の阿寒湖、チミケップ湖(網走川)、支笏湖、洞爺湖にヒメマス(天然魚)が生息しています。本州では十和田湖、中禅寺湖には北海道から移植したヒメマスが生息しています。
 ベニザケは日本の河川にはほとんど遡上しませんが、サケ属の仲間の中では最も母川回帰性が強く、的確に母川を認識します。
 ベニザケは、途中に湖があり、湖に注ぎ込む川の最も上流域で産卵するのが一般的です。
湖での淡水生活期における成長スピードはかなり速く(特に、1年目)、条件がよければ、14cm程度にまで成長します。降海したものは通常4〜5年で成熟し、40〜65cmまで成長します。
缶詰、刺身、塩焼き、塩ザケ、フライ、スモークサーモン、フレークなどです。

マスノスケ(キングサーモン)
 最近ではマスノスケよりもキングサーモンの方が通りがいいようです。2〜5年海洋生活を送り、体長は1メートル、最大は1.5メートル、体重57kgが記録されています。
 日本にはほとんど遡上しません。北太平洋、日本海北部、オホーツク海、ベーリング海に分布しています。北アメリカでは、カルフォルニア州沿岸からアラスカ州北部沿岸の河川に遡上します。カムチャッカ半島の河川でも比較的多く産卵します。
 アラスカでは釣り人はキングサーモンを釣り上げることが最大の楽しみとのことでした。
 脂肪が多いのでステーキに最適。缶詰、塩焼き、刺身、スモークサーモン、フレークにも利用されています。

アトランティックサーモン
 タイセイヨウサケとも呼ばれます。
 ふ化後、1〜4年淡水で過した後、降海します。約4年間、海洋生活をして生まれた川に戻ってきます。体長は1メートル、最大約1.5メートル、約45kgに達するものもいます。
 西・北大西洋、北極地帯に分布しています。北欧側では、イギリス北部、アイルランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア北西部などです。アメリカ側ではカナダの東部大西洋側、北アメリカ北東部などです。
 現在では人工種苗の放流も多く、ノルウェーやチリなどでは海中いけす養殖も盛んに行われています。
 日本に輸入されるものはほとんど養殖もので、回転寿司によく利用されます。そのほか脂がのっていて、フライ、ムニエル、塩焼き、刺身、切身、スモークサーモンなどに使われます。

ギンザケ
 日本へ遡上した記録はきわめて少なく、沿海州より北方、またカリフォルニア州モントレイ湾より北方の北太平洋に分布。アメリカ5大湖、合衆国ハンプシャー洲沿岸、アルゼンチンとチリに移入されています。
 ふ化した稚魚は約1年間の淡水生活をおくるのが普通ですが、中にはすぐ海へ下るものもあります。河川では下流のほうに分散していて、淵の中でなわばりをつくって生活していいます。餌は水生昆虫が中心です。春になり体長10cmくらいになった幼魚は、小さな群れをなして海に下ります。サクラマスのように川に残留する個体はほとんどいません。
 通常3〜4年で成熟。降海後1年で沿海州やサハリンに回帰するときは、体長約60〜80mくらいになります。
 切身、塩焼き、刺身など。最近はおもに塩ザケとして店頭にならびます。ほとんどが養殖で日本で海面養殖しているただ一つのサケです。

カラフトマス
 北海道でマスと言われています。
 北太平洋、ベーリング海、オホーツク海、北極海、日本海。日本では、ほとんどのカラフトマスは、北海道のオホーツク海沿岸の河川に遡上します。
 河川のあまり上流には上らず、下流域でも産卵します。また、湧水の出る場所を産卵床に選ばず、流れのある砂礫層で産卵します。ここがサケとは大きく異なります。
 河口を離れた後、あまり遠洋には移動しないといわれています。9〜10月には沿岸から離れ、オホーツク海全体を生活の場としているようです。
 2年で成熟し、約30〜60cmになります。ごくまれに3年で川へ遡上するものがあります。
 身がやわらかくて缶詰向きです。卵はイクラにもなり、「マスイクラ」と呼ばれています。

サクラマス(降海型)、ヤマメ(陸封型)
 降海型は全国的にマス、ホンマスとも呼ばれます。陸封型はヤマベ、アマゴとも呼ばれます。
 太平洋側では神奈川県以北、日本海側では熊本県以北の九州、本州、北海道、朝鮮半島、シベリア、サハリンなどに広く分布します。
 降海するものは約10〜20cmになった頃に海へ下り、2年半で成熟して(体長40〜60cm)、母川回帰します。シロサケ同様、一回産卵・放精すると、力尽きて死んでしまいます。
 一方、川に残留するものの大半は2年で成熟します。
 ヤマメは塩焼き、サクラマスはスシによく使われます。

ニジマス(陸封型)、スチールヘッド(降海型)、サーモントラウト(海面養殖)
 海面養殖のニジマスは、サーモントラウト、トラウトサーモンと呼ばれています。
 ニジマスは北米西部の太平洋にそそぐ渓流が原産地とされています。天然のものが生息しているのは、アラスカからカナダ・アメリカのロッキー山脈西側、メキシコ北西部地方。ロッキー山脈東側ではマッケンジー川の支流ピース川・アサバスカ川。カムチャッカ半島の河川や湖沼です。
 日本ではアメリカから明治10年(1877年)前後に移入され、青梅、日光、醒ヶ井(さめがい)などで養殖。その後、全国各地で放流されるようになりました。
 世界的にはアメリカ北部、カナダ南部、ニュージーランド、オーストラリア、タスマニア、南米、アフリカ、南アジア、ヨーロッパ全域に移入され、養殖が行われています。
 川の上流や中流域の清流に住むニジマスは、水温約15〜20℃の所を好み、なわばりを作ります。湖沼のニジマスは深くて冷たい沿岸部を好むといわれています。
 ニジマスは、河川にずっと残留するものは3〜4年の寿命ですが、降海するものは6〜8年も生きます。海洋生活が1年のもので体長約50cm、4年のもので約100cm。最大で120cmになるものもいます。
 サケ属の中では、比較的高水温に対応することで育てやすく、人工採卵が容易で何度も産卵することから世界的に広く養殖されています。
 燻製、ルイベ(冷凍さしみ)、塩焼きなどですが、最近では海面養殖のサーモントラウトが回転寿司のネタとしても人気があります。

3.サケの人工ふ化
 サケマスの河川での産卵と母川回帰については、日本でも古くから知られており、江戸時代中期にに村上藩(現在の新潟県村上市)の三面川で天然繁殖法が行われていました。
 サケの人工ふ化放流が始まったのは、明治10年元加賀藩士だった関沢明清によってです。関沢は当時ヨーロッパで盛んに行われていたマスの人工ふ化方法に驚き、さらに1876年(明治9年)の米国フィラデルフィアの万国博覧会で、サケのふ化方法を学び、日本にその技術を伝えました。
 本格的にふ化放流事業が進められたのは1888年(明治21年)に北海道の石狩川支流千歳川に官営の千歳中央ふ化場(現在のさけますセンター千歳事業所)が建設されてからです。これを契機に北海道においてはふ化場の建設が進められ、これまでの河川内捕獲規制や産卵保護による資源維持から人工ふ化放流事業への大きな転換が図られました。
 その後1934年(昭和9年)ふ化放流事業の統一、再編が図られ北海道庁の管轄となり事業が進められてきましたが、戦後1951年(昭和26年)水産資源保護法の公布にともない、北海道におけるふ化放流事業は国に移され「水産庁北海道さけ・ますふ化場」が設置されて、北海道において道営、民営のふ化場が次々と建設され、国営のふ化場を中心に官民一体となったふ化放流事業 が実施されました。
 本州においても1955年 (昭和30年)から国費、県費の補助事業として実施されています。

ふ化放流の流れは次のようになっています。
@ 捕獲
9月から12月にかけて産卵のために母川へ戻ってきた親魚を捕獲する。捕獲の方法は魚道式、ウライ式(河川を格子等で遮断しその一部に捕獲槽を設ける)が一般的であるが、補助的に曳網を用いることもある。
A 蓄養
未成熟な親魚は,成熟して卵が採れるまでの期間、陸上蓄養池あるいは河川内生け簀等において蓄養する。
B 採卵と受精
成熟した雌から切開法により採卵する。これに雄の精子をかけて受精させる。
C 受精卵の収容
受精卵はふ化場へ運搬し、ふ化器に収容される。卵は、水温8℃(北海道の湧水の場合)前後の湧水の中で管理する。
D 発眼とふ化
受精卵は水温8℃の場合約30日で発眼し、60日でふ化する。ふ化した仔魚は養魚池でさらに約60日近く、主に屋内で安静な状態で管理する。
E 浮上と飼育
仔魚は養魚池でさいのうを吸収すると浮上遊泳し始める。この時点から飼育池において乾燥配合飼料を与え、体長4〜5pを目標に飼育する。
F 放流
沿岸水温が5℃以上13℃以下の時期(北海道では3月から5月)に、河川へ直接あるいは輸送放流する。放流した稚魚は数日から1ヵ月程度で海へ下る。陸上に飼育池が整備されていない場合には、更に海中飼育を実施する場合もある。

 2010年の稚魚の放流数の全国合計は18億6百万匹、2014年の来遊数の全国合計は4千4百60万匹、単純回帰率は2.5%でした。
 ここ10年間では、単純回帰率は2.3%〜3.8となっています。
 単純回帰率は、来遊数をその4年前の年度の放流数で除したもので、簡便法として一般に用いられます。
 回帰するサケの年齢は4年魚がもっとも多いことから、上記のような方法で計算しますが、実際には2年魚から8年魚までが確認されています。

4.サケマスの養殖
 サケマス養殖には内水面養殖(淡水養殖)と海面養殖(海水養殖)があります。
 日本のサケマス養殖は130年前の1877年(明治10年)にニジマスの内水面養殖により開始されました。一方、サケマス海面養殖も1963年(昭和38年)に内水面養殖と同じくニジマス養殖により開始されました。
 昭和50年代に入り日本のサケマスの企業養殖は本格化しました。
 先鞭をつけたのは宮城県志津川町漁業協同組合と日魯漁業が行なったギンザケ養殖事業です。
 1978年(昭和53年)には志津川漁協を中心に80トンのギンザケが生産され、日魯漁業は全国の市場にギンザケを鮮魚で出荷しました。
 昭和50年以降に開始されたギンザケ以外のサケマス海面養殖種にはマスノスケ、ベニザケ、サクラマス、ドナルドソン系ニジマス、タイセイヨウサケ、があります。
 これらの魚種の海面養殖は昭和50年代、60年代に民間、国、県の事業ベースまたは企業化試験として北日本各地で実施されました。
 しかしながら現時点で事業として継続されているのは宮城県を中心に行われているギンザケ養殖事業だけです。
 これにたいして海外では、タイセイヨウサケ、サーモントラウト、ギンザケ、キングサーモンなどが、魚種に応じて、ノルウェー、チリ、カナダ、イギリス、アメリカ、フランス、スペイン、ニュージーランド、オーストラリア、ロシア、イタリア、その他で養殖されています。
 日本の輸入は、回転寿司が増えるにつれてそのネタとして、タイセイヨウサケ、サーモントラウトを中心に、ノルウェーやチリ産のものが増加しています。
 海洋産のサケ類にはアニサキス幼虫が寄生していることがあり生食は危険ですが、マイナス20度以下で24時間以上冷凍すると死滅するので、冷凍で輸入されるものは問題ありません。

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