魚介シリーズ第4回はイカ、タコについてまとめました。
 イカとタコは日本人が大好きな食材です。ともに世界中で日本人が一番多く食べています。

参考資料:
「イカ・タコ ガイドブック」土屋光太郎
TBSブリタニカは
「からだにおいしい魚の便利帳」藤原昌高
 高橋書店
「イカはしゃべるし、空も飛ぶ」 奥谷喬司
 ブルーバックス
HP「Wikipedia イカ、その他」
HP「Wikipedia タコ、その他」

イカ物語

 私の育った愛媛県伊予市(当時は郡中町)の港に揚がるイカはスルメイカなどと違って固い甲を持っているイカでした。コウイカの類です。この甲は軽くて白い楕円形をしており、炭酸カルシュウムの結晶から構成されています。
 終戦前後は「もの不足」の時代でした。消しゴムなどは売られていません。このイカの甲を天日干しにして消しゴム代わりに使ったのでした。結構書き間違えた文字が消えたのを覚えています。友達の多くもイカの消しゴムを愛用していました。
 当時食べたイカのことはあまり覚えていませんが、今はイカは私の最も好きな食べ物の1つです。特にイカ刺しやイカのにぎりやイカの塩辛など、生で食べるのが大好きです。

1.イカの種類
 現在、世界の海にはおよそ33科450種内外のイカが住んでいると言われています。日本人は、このうち約30種のイカを食べています。
 ここでは食用のイカを主に考えてみましょう。イカは大きく分けると、体の中に舟形をした石灰質の貝殻、いわゆる「イカの甲」を持っている「甲イカ類」(英語でcuttlefish)と胴が細長く円筒形で、背側にキチン質の軟甲を持つ「筒イカ類」(英語でsquid)に分けられます。
 甲イカ類は身が厚くてもちっとした食感で甘みがあります。筒イカ類は上品で淡白な味が特徴です。

甲イカ類
コウイカ
 関東では「スミイカ」西日本では「マイカ」とか「ハリイカ」とも呼ばれます。甲イカ類で日本で代表的なイカです。胴長15〜20cmで、ヒレの付け根に銀色の帯を持ち、背面には褐色の地に白の霜降り模様と不明瞭な黒点を散らしています。水深10〜100mの砂泥底に生息しています。
 ずんぐり体系で甘くて肉厚、刺身、てんぷらともおいしく食べられます。

カミナリイカ
 最大胴長40cm、5kgまで成長する大型種です。ヒレの付け根沿いに伸びる銀色の帯が特徴。房総半島以南、熱帯、西大西洋などの浅海域砂泥底に生息。
 味が抜群に良く、特に天ぷらは秀逸。
 もともと「モンゴウイカ」はカミナリイカを指す名称でしたが、現在は海外から輸入される大型イカ全般を指す名称になりました。

シリヤケイカ
 甲イカ類の変わり種。一般に甲イカ類は単独で海底に接した生活をするものが多いが、シリヤケイカは群れを作り回遊することもあります。胴長14〜15cm、イカの尻(体の後端)に小さな孔があり、そこから赤褐色の液を分泌します。釣りや沿岸漁業でよく獲られます。

筒イカ類
スルメイカ
 日本を代表するイカで日本の総漁獲量中ナンバーワンで5%を占めます。地方によっては「マイカ」と呼ばれます。大型のもので胴長30cm、700gくらい。日本近海の固有種で、オホーツク海から東シナ海の大陸棚上に生息。
 刺身、イカソーメン、塩辛、フライ、イカ飯、イカリング、煮物、イカ焼き、イカリング、スルメなどいろいろ利用されます。

ケンサキイカ
 「白イカ」「赤イカ」「ブドウイカ」「だるまイカ」「マルイカ」などの様々な地方名で親しまれています。胴長で頭でっかちの感じがします。オスは胴長40cmを超えますが、メスは30cm程。
 アミノ酸、うまみ成分はイカの中で1,2を争います。刺身がおいしいですが、焼いても甘みが残りやわらかです。

ヤリイカ
 日本を代表するイカの一つです。名前は細長く先がとがっていて槍の穂先に見えることから。体色は鮮やかな紅色で、オスは胴長40cmにもなりますが、メスは25cm程。北海道南部以南、東シナ海までの沿岸に生息。
 刺身や寿司ネタなど抜群。

アオリイカ
 アオリイカには「白いか」「赤いか」「くぁいか」の3種が確認されています。白いかは胴長40cm、赤いかは50cm、くぁいかは15cm程になります。白いかは食用として最高級のイカとされ、イカの中で最も高価です。

アカイカ
 アカイカはスルメイカ資源が少なくなったため開発されたイカ資源です。「紫イカ」とも言われます。スルメイカが日本列島沿いにいるのと違い、アカイカは日本から向こう岸のアメリカ西岸にいたる広い太平洋の沖合に生存しています。「さきいか」の原料として重用されています。胴長は45cmにもなる大型種で、赤褐色をしています。
 刺身や中華料理やフライなどにも利用されています。

ホタルイカ
 ホタルイカは腹側(下面)前面に細かい粒状の発光器と腕の先端に大型の発光器数個を持っていて光ります。富山湾では春先から初夏にかけて産卵のため浅海に押し寄せ、網で捕獲される際、青く輝く光が幻想的です。
 また、春産卵のため岸に接近しようと浮上してきますが、新月の夜は水面の高さが判らず、波にさらわれて岸に打ち上げられてしまいます。これが「身投げ」と呼ばれ富山の春の風物詩になっています。
 胴長は7cm程。生食、浜ゆで、沖漬け(しょうゆ漬け)などで食べられます。

2.イカのあれこれ


(1)イカの食べ方
 イカは実にいろいろな食べ方で私たちを楽しませてくれます。これほど多様な食べ方をされているのは魚介類の中でほかにはあまりないのではないでしょうか。
・生で−刺身、イカソーメン、すしネタなど
・揚げて−てんぷら、フライ、から揚げ、イカリングなど
・煮て−煮つけ、各種野菜と一緒の煮つけなど
・焼いて−イカ焼きなど
・炒めて−各種野菜との炒め物など
・干物で−イカのスルメ、ノシイカなど
・漬物で−松前漬け、沖漬けづけなど
・その他−塩辛、イカ飯、ちゃんぽん、パスタなど

(2)イカとタコの違い
 イカとタコに違いとして「イカは10本、タコは8本」がよく知られています。この2本の差は、餌をとらえるための伸縮自在な「触腕」をイカだけがもっている持っているためです。分類学的にもイカは「十腕類」、タコは「八腕形類」に属しています。
 ところが、外洋域に住むイカには、タコイカやヤツデイカという触腕のない8本足のイカがいます。これらのイカも孵化したての子供のころにはちゃんと触腕があり、成長の過程で脱落するのです。
 イカとタコのもう一つの違いは吸盤の形です。タコの吸盤は太い腕に円柱状、切り株状の吸盤がついています。これは筋肉の収縮で吸い付く吸盤です。一方イカの吸盤はわりと小ぶりで腕の付け根から細い「柄」がのび、その先に半円級の「カップ」がついています。カップの縁沿いにはリングがありその上にはキチン質の歯がついています。引っかけて噛みついて張り付く吸盤なのです。

(3)カラス・トンビ
 スルメイカやアカイカ(紫イカ)を加工するとき除去された口の部分が「いかくち」などといって珍味として売られています。これはイカの口を囲む筋肉の塊で「口球」と呼ばれます。
 この中には俗に「カラス・トンビ」と言われる鳥のくちばしのような2枚のキチン質からできている「顎板」で、イカの口あるいは歯にあたるものです。これはイカに特有な器官で、獲物を細かく噛み砕くために発達したものです。
 この「カラス・トンビ」は実はマッコウクジラの胃袋の中にできる香料「抹香」のもとになります。

(4)イカの墨
 イカは漢字で「烏賊」のほか、「柔魚」とか「墨魚」と書きます。ドイツ語では「ティンテン・フィッシュ」すなわち「インク魚」です。イカと墨とは切り離せません。
 イカの墨は直腸と肝臓との間にある墨袋で造られます。イカの墨は「セピオメラニン」と呼ばれるメラニンの一種で、マグネシウムやカリュウム塩として存在します。
 イカは墨汁を好きな時に好きなだけ噴射できます。イカの墨は粘液に富んでいるので、吹き出すとしばらく散らばりません。攻撃者の目をあざむくダミーとしているのでしょう。
 これに比べると、タコの墨はややさらさらしていて、すぐ海中に散って煙幕の効果をもたらします。

(5)素晴らしきハンター
 イカは徹底した肉食者で腕の良いハンターです。種類によって餌になるものは多少違いますが、エビやカニやオキアミや小魚などです。共食いすることもあります。
 甲イカ類は優れた視覚と伸縮自在の触腕を使って餌をとらえます。その素早さは早打ちガンマンさながらです。
 筒イカ類の捕食は、全腕を使って魚をとらえると、鋭い顎板で魚の急所である頸部を食いちぎりとどめを刺します。
 三陸で底引き網を引いたとき、なぜかイワシの頭と背骨がたくさん取れた場所があったと言います。そこの真上はスルメイカの好漁場でした。おそらくスルメイカが集団でイワシを襲い、食いちぎって捨てた頭や背骨だったのだろうという話が残っています。

(6)ダイオウイカ
 世界最大のイカとして知られるのはダイオウイカです。
 現在までの最大記録はノルウェーで採集された胴長5.6メートル、全長19.8メートルのダイオウイカです。ワシントンのスミソニアン博物館には1980年マサチューセッツ州のプラム等に漂着した全長約10メートルの巨大イカの実物標本が展示されています。
 日本沿岸で採集されるものは胴長2メートル前後で、比較的小型です。
 参考文献の土屋光太郎氏は食べた経験を「ものすごいしょっぱいというか、渋いというかとても食べられたものではない」と書いています。

(7)今後もイカを十分食べられるか
 今、日本で魚介類中最も漁獲量の多いスルメイカの不漁が続いています。
 スルメイカは昭和43(1968年)年には史上最高の66万8千トンの漁獲量がありましたが、平成25年には17万2千トンに減り、一昨年の平成28年には6万4千トンにまで減少しました。30年ぶりの大不漁です。
 原因は海水温の上昇が一因と言われていますが、詳しいことはわかっていません。ただこの不漁は長期化するのではないかと予想されます。
 イカの養殖は経済的に引き合わず、いまだにイカの養殖業は成立していません。
 イカの輸入は大量に行われていますが、世界中で和食の普及などによりイカの需要が増え、イカの価格が高騰しています。
 今後もイカを十分食べられるかどうかはイカ資源の回復にかかっており何とも言えない状況です。

タコ物語

 タコについての子供のころの思い出も食べた記憶よりも、タコ漁の方を鮮明に覚えています。
 浜に返ってきた漁師の船に縄にくくられたタコ壺がたくさんありました。漁師がタコ壺を逆さにすると、中から生きたタコが出てきました。ほとんどのタコ壺にタコが入っていたように覚えています。
 タコもゆでて食べたと思いますが、その記憶は特に印象に残っていません。はっきり覚えているのは、「かんとだき」の中に入っていたイイダコです。かんとだきは「おでん」のことです。今は知りませんが、私の小さいころは四国では、おでんとは言わず、かんとだきと言っていました。そのイイダコがおいしかったのを覚えています。
 今は寿司ネタのタコやたこ焼きやタコ飯を楽しんいます。

1.タコの種類
 タコの種類はイカほど多くはないようです。ここでも食用のタコを取り上げます。
 イカもタコも欧米ではスペイン、イタリアでは食べますが、フランス、イギリス、アメリカなど食べない国が大半です。
 マダコやミズダコは大変知能が高く、ドイツの水族館で飼われていたマダコはドイツチームの勝敗を予測したことで有名になりました。それはともかく、海中のタコは高い知能を発揮して餌を獲ったり、敵から身を守ったりしています。

マダコ
 世界各地の熱帯・温帯海域に広く分布し、日本では一般にタコといえばマダコを指すと言ってもいいようです。全長60cm、3.5キロに達します。
 浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息しますが、外洋に面した海域に多く、内湾には少なく、真水を嫌い、汽水域には生息しません。
 日本では重要な漁業資源で、タコ類の中では最も漁獲量が多く、瀬戸内海の明石沖でとれる「あかしだこ」が有名です。マダコはアフリカ大西洋岸諸国等からも輸入されています。モロッコからの輸入は一時日本での消費量の4割を占めていましたが、乱獲のため漁獲量が減少し、2003年から年あたり8ヶ月程度の禁漁規制が続けられています。
 カニ等を餌とした釣りも行われますが、物陰にひそむ性質を利用した「蛸壺」(たこつぼ)漁法が主流です。大阪湾沿岸の弥生時代の遺跡からも、蛸壺用と思われる土器が大量に発掘されており、古くから食用にされていたことが窺えます。
 塩で揉み洗いしてから茹でて、酢蛸や煮物、寿司種等にします。茹でずに生で刺身にしたり、薄切りにしてしゃぶしゃぶにすることもあります。

ミズダコ
 世界最大のタコだけあって体、吸盤ともに非常に大きいです。体長は足(腕)を広げると3−5m、体重も10−50kgにもなり、最大記録では体長9.1m、体重272kgと言われます。
 ミズダコも蛸壺で捕獲されます。マダコの流通が少ない北海道や東北でのタコというと大抵はミズダコであり、北海道ではミズダコの漁獲高が最も多く、乱獲による個体数の減少も懸念されています。北海ダコと呼ばれることもあります。
 料理方法として、刺身、寿司、たこ焼きおでん、塩茹で、しゃぶしゃぶ、燻製、酢蛸、塩辛などがあります。

イイダコ
 イイダコは冬から春にかけてメスは卵を持ちますが、これをゆでると「飯(いい)」のようになるためこの名前が付きました。
 体長は最大でも30cmほどで、タコとしては小型です。北海道南部以南の日本沿岸域から朝鮮半島南部、黄海、および、中国の沿岸域に至る東アジアの浅海に生息しています。
 食べ方は塩茹でし、丸ごとおでん種など鍋物に、ぶつ切りにして刺身や酢味噌和えなどに、他に煮物、炊き込みご飯、から揚げなどです。

inserted by FC2 system